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私が小さい頃に死んだはずの、お母さん。 写真の中でしか見たことなくて、今は空の上で私たちを見てくれてるはずのお母さん。 『まったく、親娘そろって』 そんなお母さんが私のパソコンにちんまりと居着いてるなんて、誰が想像するよ…… ------ 「てけてけかなたさん」 その2・しかえし ------ 勉強するふりをしながら画面をチラチラと見ていると、相変わらずちっちゃいお母さんは そーゆーゲームのアイコンをせっせと捨てている。まだプレイ中のもあるってゆーのに…… どうにかしたいけど、画面に近づけば画面の端に隠れちゃうし、ごみ箱から取り出しても またすぐに放り込まれちゃうからなー。 誰かのイタズラっていう考えは、時々起動されるメモ帳に『そう君のばかー!』『こなた までこんなにしちゃうなんて』って出てくることで吹っ飛んだ。そうなると、辿り着く結論 といえば……100%現実にはありえないけど……お母さんが取り憑いたってこと? 『この際だから、徹底的にやりましょ』 しかし、部屋のエロ本をサルベージされる男子高校生の気持ちをわからされるとは。 って、なんかホントにいっぱいアイコン抱えてるし?! 「ちょ、ちょっと待ったー!」 私は急いでパソコンに飛びつくと、マウスのポインタをアイコンに合わせてドラッグした。 『きゃっ!』 ドラッグしたアイコンはその場所で止まったまま、お母さんは盛大に他のアイコンをぶちまけて転んだ。 ってことは、もしかして…… イタズラ心がムラムラと湧き出てきた私は、マウスのポインタをちっちゃいお母さんに合わせて、 「ていっ」 ポチッとクリック。 『きゃっ』 おおーっ、想像通りの反応。ほっぺたぷにぷにしてたら慌てるし、ドラッグすればジタバタするし。 「だめだよおかーさん、娘の秘密勝手に捨てちゃー」 『きゃっ! や、やめてー!』 クリックし続けているうちに、お母さんは画面の中をぐるぐると逃げ始めた。わはは、 こやつめ。さっきまでの仕返しだーっ! とかやってるうちに、お母さんは涙目でこっちを睨みつけると何かのプログラムを起動し始めた。 えっと、これは……『ディスクの管理』? と、ポインタが勝手に動いて、Cドライブのところに行って ……うぉーーーーーいっ、、『フォーマット』?! 「おかーさん! ごめんなさいっ! もうしないっ! もうしませんからっ!」 私が一生懸命謝り倒すと、お母さんは体をぱんぱんと払って、私と同じナイ胸を張って見せた。 『えっへん』 え、えっへんじゃないって、おかーさん…… 完 てけてけかなたさん その3・ぴこぴこへ続く ※下部添付ファイルに4-243氏によるCGあり コメントフォーム 名前 コメント おかーさん、今のパソコン分かるのか…すげーな -- 名無しさん (2011-04-11 23 36 21)
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773 :てけてけかなたさん:2007/06/20(水) 12 06 35 ID IB47xz7M 神様のごほうびとかで、私のパソコンに住むことになったお母さん。 さっきまでは、初めての親娘の会話をチャットで楽しんでいたんだけど…… 「う~」 『む~』 今は何故か、画面を挟んでにらみ合いをしている。 ------ 「てけてけかなたさん」 その6・こんどはせんそうだ ------ 『入れちゃだめですからね』 『入れちゃだめなんて、そんなウブじゃないんだからさー』 『そ、そういう風にとらないでくださいっ! とにかく、だめなものはだめですからねっ!』 『せっかく娘が大人の階段を昇り始めてるっていうのにー』 私はそう言いながら、手にしているものをお母さんに見せつけた。 『そんな卑猥なものを見せつけないでください!』 『もー、初々しいんだから』 手にしているのは、こないだ中古で買ったエロゲのパッケージ。表側は全然えっちくない のに、お母さんってばエクスプローラーの後ろから顔を赤くして見ている。 「まあいいや、CD-ROMだし、どうせ中身まで消されることはないもんねー」 『きゃぁぁぁぁぁぁ!』 トレイを開いてCD-ROMをのっけて、んでもってクローズと。 がしょーん……がしょーん、がちゃんっ 「……ん?」 閉じたトレイが勝手に開いたけど……っておーい! 『はあっ、はあっ』 なに右クリックメニューの『取り出し』を押してるのさっ! 『ぜーったい、ダメですっ!』 『うー、けちーっ!』 こうなったら、ちゃんと入るまでやってやる! がしょんがしょんがちゃっ、がしょんがしょんがちゃっ、がしょんがしょんがちゃっ がしょんがしょんがちゃっ、がしょんがしょんがちゃっ、がしょんがしょんがちゃっ、がしょん…… 「ぜえっ、ぜえっ」 『はあっ、はあっ』 うう、もう何十回目だろ……このままじゃドライブも壊れるよ……えーいっ、これが最後の勝負! お母さんが肩で息をしているスキに、私はまたトレイをクローズした。 『ううっ、もー……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 そう叫んで、お母さんは思いっきり『取り出し』に正拳突きをして、 ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅがしょんっ! ……ごいんっ!! 「ぷぎゃっ?!」 私のおでこに……CDが……CDが…… 『あっ、だ……大丈夫?』 さ、さすがは私のお母さん……見事な……突き……で…… 『わーっ! こなたーっ!?』 がっくり。 完 てけてけかなたさん その7・こわしやかなたさんへ続く コメントフォーム 名前 コメント
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職人ID=F00-BTW-X5G Twitterアカウント=https //mobile.twitter.com/Kanata26A_ プレイ情報 どこマリ簡単,普通は1000コース以上クリア どこマリ難しい,とてむずは銅メダルを持っている みんなでクリアもそれなりに多い コースクリア数,挑戦数も5桁以上のプレイヤー! バトルメダルを含めば実質メダル8枚持っていることになる! コース制作 ギミックコースから演奏コースまで様々なコースを投稿! 全体的に安定した人気を誇っている。 1番伸びたのが「POWを使ったミニゲーム!」 いいね数約3000,足跡12600を記録した超人気コース!! その人気もあり、総いいね数50000 全期間職ポ18000で全期間職ポ銀メダル(世界200位以内)に位置している! YouTubeでチャンネル登録者数120万人を超える人気YouTuber「ころんの実況」でも動画化された実力を持つ! https //m.youtube.com/watch?v=ywIZcLpFJi8 (※1コース目=7 13〜,2コース目=8 29〜) みんなでバトル 2021/1/5にS+を達成し、2022/7/28に赤帯に到達した! 赤帯になってからはあまり遊んでいない様子。 試合数はほぼ10000、勝率は約26%。 マリメニュース関連 部門 ○位 順位 スコア 一番乗り 35 2位 303 37 2位 358 41 5位 280 第45回ゲスト 【質問コーナー】 得意教科…数学 余談 2016年6月に結成した配信者6人からなる「すとぷり(すとろべりーぷりんす,strawberry prince)」が好きらしい。 最推しは莉犬くん。 ピーマンレイやレベルファイブも好きらしい。
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『お母さん、どこー?』 ネトゲを終わらせてフルスクリーンモードから戻ると、画面にいつもいるはずのお母さんの 姿が無かった。とりあえず、IRCにはいるみたいだから声をかけてみたけど…… 『あ、ごめんなさいね。お隣の部屋に行っているの』 タイムラグも無く、すぐに返事が来る。そっか、ゆーちゃんのお部屋か。 普段は私以外には姿を見せないようにしてるはずなんだけど、お母さんがそっちに行って るってことは……ちょっと、様子を見に行ってみようか。 ------ てけてけかなたさん その8・いもうと ------ 「ゆーちゃーん……起きてるー?」 部屋を覗き込みながら呼んでみたけど、返事はない。部屋の主であるゆーちゃんは…… あ、やっぱり寝てるや。 夕陽のぽかぽかとした日差しを浴びながら、ゆーちゃんはすやすやと眠っていた。昨日から ちょっと体調が辛かったみたいだけど、少しは良くなったのかな。 『ゆたかちゃん、気持ちよさそうに眠ってるわよ』 『それならよかった。ありがと、お母さん』 ゆーちゃんのPCのメモ帳が立ち上がっているのに気づいて、静かにキーをたたく。 画面の中にいるお母さんは、優しいまなざしでゆーちゃんのことを見ていた。 『一昨日熱を出したときはちょっと心配だったけど、今日は大丈夫みたいね』 『ごはんもそれなりに食べてたし、お昼からずっと寝てるなら大丈夫っぽいね』 こっちに来てからゆーちゃんも元気な時が多くなったけど、少し疲れたりすると体調を 崩すこともある。そういう時は食べないよりも食べたほうがいいってことで、栄養にいい 料理を私もお父さんもゆい姉さんからレクチャーしてもらっていた。 「うーん……」 あ、寝返りで毛布がはだけちゃってる。よいしょっと。 首のあたりまで毛布を戻してあげてから、ぽんぽんと優しくなでてあげる。 『こなたも、すっかりお姉ちゃんね』 『ゆーちゃんはかわいい妹だからねー』 初めて見たときから、お母さんはよくゆーちゃんのことを気にかけていた。体調の面とか、 自分の境遇と似通ってたところがあるって思ってるみたい。 『妹、かぁ』 それと……私に妹を遺せなかったっていうのも気がかりなようで。 『ねえ、こなた』 『えっ?』 『ゆたかちゃんのこと、大事にしてあげなきゃだめだからね。大切な妹なら、なおさらよ』 少しおどけたように言うお母さんだったけど、その瞳はまっすぐで……真剣だった。 ……きっと、そこにはいろんな思いがあって、 『わかってるよ。ゆーちゃんは、みんなで守る。私も、お父さんも、ゆい姉さんも、おじさんも、 おばさんも、みなみちゃんも、ひよりんも、みんな……みんなでね』 私も、ちゃんとそれにちゃんと応えて、 『だから、お母さんもゆーちゃんのこと見守ってあげてね』 またひとつ、お母さんと約束をかわすことにした。 『当たり前ですよ、かわいい家族ですもの』 そう言ってにっこり笑ったお母さんを見て、私も思わず頬がゆるむ。 うん、きっと大丈夫。 お母さんが、ずっとゆーちゃんを見守ってくれるんだから。 完 てけてけかなたさん その9・へんしんへ続く コメントフォーム 名前 コメント
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「へー、なかなかよく出来てるキャラじゃない」 「あ、ちょっとかがみ、それはちょっと」 「どれ? うりうりうりっ」 な、なんでマウスカーソルで服をつまむんですかっ! 『きゃっ、きゃーっ!!』 しかも追いかけないでくださーいっ!! ううっ……私のPC内人生、最大の危機です…… ----- てけてけかなたさん その13・ともだち ----- うとうとしかけていたお昼前、画面の向こう側に誰かが入ってくるのが見えました。 この部屋の主のこなたに、髪を両横でまとめている女の子。そしてリボンをてっぺんで 結んでいる女の子に、ほわんとしたメガネの女の子……昨日から来るって言ってたお友達ですね。 その子たちの姿が見たかった私は、今日一日「ですくとっぷますこっと」として振る舞う ことになったわけですが……こう、同じポーズでいるっていうのは難しいものです。 相変わらず外の言葉は聞こえませんが、こなたが楽しそうに振る舞っているのを見ると こちらも嬉しくなってきます。女の子が出てくるゲームばっかりプレイしていたので、 正直学校ではどうなのかしらと心配していたこともありましたから。 ……うん? なんか、髪を両横でまとめている女の子と目が合っちゃいました。確か、 こうなったらこなたが「新しく入れた『ますこっと』」と言ってごまかすはずですが…… って、どうしてこっちに近づいてくるんですか? 女の子はマウスを手にすると、マウスカーソルがこっちに来て……いたっ! い、 いきなりクリックでつつかれてしまいました。でも負けてはいられません。このまま直立 不動で――いたっ! い、いたいです。先っぽがとんがってますから、カラスのくちばしに つつかれるみたいに……ん? 今度は私の服にするすると近寄ってきて、も、もしかしてっ?! 『きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!』 もうダメです! 直立不動なんてしてられませんっ!! ドラッグで服がつままれて、 このままじゃ脱げちゃいそうですから、とにかく逃げましょうっ! 確か、どこかに逃げれば よかったような……あっ、タスクバーの中でしたっけ! とにかく、そこに隠れてっと。 タスクバーの中に逃げ込むと、女の子は残念そうに苦笑いして、こなたや他の子はまた 違う感じで苦笑いをしていました。もしかしたら、この活発そうな子がこなたがよく話題に 出す「かがみ」ちゃんなんでしょうか? その後はみんなでPS2のゲームをしていたり、夏休みの宿題をしたりして過ごして、 陽が落ちかけた頃になって帰って行きました。 ちょっと不真面目だけど、みんなと一緒に楽しそうにしているこなたの姿は新鮮で、 そんなこなたの面倒を見てくれるようなかがみちゃんやリボンの女の子、ほわんとした 女の子がとっても頼もしく見えました。 『やー、お母さんゴメンね。災難だったでしょ』 みんなが帰ると、こなたが苦笑いしながらIRCに接続してきました。 『ううん、大丈夫。マウスで追いかけられたのにはちょっとびっくりしたけれど』 『あはははは……かがみってば『こなたにそっくりでかわいいわね』って興味持っちゃって』 だからといって、つつくというのはどうかと思うんですけど…… 『でも、こなたの新しい一面が見れてよかったわ。みんなもいい子たちみたいで』 『そりゃそうだよ、私の大事な親友だもん』 えっへんと胸を張るこなた。その姿はとっても誇らしげで、とっても楽しげでした。 『中でも、かがみちゃん……よね、私を追いかけていたのは。あの子はこなたのこと、 よく見ているわね。こなたがだらけるとツッコミを入れたりして』 『あー、もう学校でも遊びでもメールでもしょっちゅうだから』 『ああいう子が男の子でいたら、私も安心なんですけどね』 『ちょっ、お、お母さん、何言ってるの!』 こなたは顔を真っ赤にして慌ててますけど、私は結構真剣なんですよ? やっぱり、 こなたには頼もしい子が側にいてほしいですから。 「……そりゃ……かがみは好きだから、私もいーけどさ……」 ボソボソ何か言ってるみたいですけど、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。 ともあれ、こなたが平和な日常を送っているみたいで安心しました。 完 てけてけかなたさん その14・こえがきこえるへ続く コメントフォーム 名前 コメント かがみんは女の子だけどそこいらの男より頼もしいですわよ、お母さん☆ -- 名無しさん (2011-04-13 04 08 33)
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その1・こなたの場合 「むー……」 なんでもないのかもしれませんけど、このフォルダ名ってもしかしたら……? そう思ってしまうほど怪しい「宝物」という名前のフォルダ。いつの間にか出来ていた このフォルダは、開けてしまえばそーゆー空間に引きずり込まれそうな感じがします。 でも、今はお掃除中。怪しかろうがどうだろうが、ちょっとは見ておかないといけない わけで。いえ、別に興味があるとか、そういうわけじゃないんですよ? ただの親心です。 えっと、本当ですからね? ベッドに寝転んでマンガを読んでいるこなたを横目に、まずはフォルダを開いてみて…… って、や、やっぱり画像ファイルが一杯ありますよ?! これは、やはり……えっと、そ、 そーゆー画像なのでしょうか。か、確認のために、一枚は見ておかないといけませんよね。 いきなり消したりしたら、こなたにまたマウスカーソルでつつかれちゃいますし。 とりあえず、適当に一枚……っ?! なっ、なっ、なっ…… 「なんですかこれはーっ?!」 --- てけてけかなたさん"おかわり" 最終話・ふぉとぐらふ --- 「ど、どうしたの!?」 思わず叫び声を上げると、こなたがすぐにぱたぱたとPCへ駆け寄ってきました。 「ちょっ、ど、どうしてこの画像が?!」 「えっ?」 私が指さしたウインドウには、昨日メイドさんとかの格好をしたときの私の姿。でも、 なんでこんな恥ずかしいのが写真みたいに残ってるんですか?! 「あー、ちゃんとスクリーンショットが機能してたみたいやね」 「す、スクリーンショット?」 「そう、ここに『PrintScreen』ってキーがあるでしょ? それを押すと、画面の状態を 画像に残せるようなソフトを常駐させてみたんだよ。いやー、ちゃんと機能してたんだ」 嬉しそうに言うこなたですが、私は恥ずかしさでいっぱいで……あっ、このファイルも、 あのファイルもいろんな格好をした写真です! まさか、このフォルダ全部が私の写真 だらけなんですか?! 「だっ、ダメっ! 全部消しますからねっ! 全部っ!」 「えー」 って、どうしてこなたってばそこで不満そうな顔をするんでしょう。 「せっかく、お母さんのいい画像がとれたと思ったのに」 「い、いい画像って! そもそも、不意打ちなんてずるいじゃない!」 「だってさ、せっかくお母さんがいてくれてるってのに、何も残らないのはさみしいでしょ?」 「えっ……?」 少しむくれた、こなたの顔。 でも、それ以上にさみしそうな表情が見て取れて…… 「私だって、お母さんとの想い出が欲しいよ」 「こなた……」 確かに、私とこなたの間の想い出はほとんど存在しない。そう言われたら……ダメなんて、 言えなくなるじゃないですか。 「もうっ、しょうがない子ね」 「いいの?」 「その代わり、不意打ちはダメよ? ちゃんと撮るときは撮るって言うこと」 「うんっ、それは全然おっけー!」 さっきまでむくれてたのが嘘みたいに、こなたがこくこくと嬉しそうにうなずきます。 『泣いたカラスがもう笑った』というのはこういうことを言うんでしょうか。 「それじゃあ、今日もまた撮影会といきましょーか!」 「ちょっ、こ、こなたっ、いきなりそれはどうかと思うんだけど?!」 「なーに言ってるの、いっぱい想い出を作らないと」 くっくっくっと笑って、どんどんブラウザを開いていくこなた。ああっ、もしかしたら 触れてはいけない扉に触れてしまったんでしょうか? でも……こうやって、娘の初めてのわがままに付き合うのもいいかもしれません。 「お手柔らかにね、こなた」 「はーいっ」 少し苦笑いしながら、私はこなたといっしょに服選びをすることにしました。 その2・ゆたかの場合 さくさくという歯触りと、しっとりとした歯ごたえが口に広がる。 生地のふんわりとした香りとメープルシロップの匂いが優しくて、ほっと安らぐ味です。 「かなたさん、どうですか?」 「ええ、とてもおいしいわよ。さくさくしてて、ちょうどいい焼き具合」 「よかったぁ」 画面の向こう側でドキドキとのぞき込んでるゆーちゃんの顔が、ぱっとほころびます。 確かに、ホットケーキって簡単そうで難しいんですよね。しっかり焼こうとすると焦げて しまいますし、だからといって慎重にやりすぎると生焼けになってしまいますから。 それでは、もう一口……うんっ、とっても甘くておいしいです。 「この間、生地に少しマヨネーズを入れたらさくさくになるって、ネットで見かけたんです」 「最近はそういう小技もあるのね。でも、マヨネーズっぽい味はしないわよ?」 「ほんのちょこっとですから、全然気にならないんですよ」 そう言いながら、食べ途中のホットケーキを一口ほおばるゆーちゃん。彼女自身にも 納得の味だったみたいで、あふれるような笑顔で食べています。 「あっ、そうだ。お姉ちゃんとおじさんにも差し入れしてきますね」 「ええ、いってらっしゃい」 ゆーちゃんは私にぺこりとお辞儀してから、ぱたぱたと部屋を出て行きました。本当、 気遣いも出来て思いやりもあっていい子です。ゆきちゃんもゆいちゃんも、いい娘さん・ 妹さんをもったものですね。 それでは、もう一枚……あっちでは食べることのできない懐かしい味ですし、今のうちに たくさん食べておきましょう。写真のファイルがあればいくらでも取り出せますから。 ファイルから取り出したばっかりのホットケーキは、相変わらずの焼きたて。ゆーちゃんは 料理の腕だけじゃなく、写真の腕もなかなかのものみたいです。 ホイップクリームを少し乗せて、小倉あんもちょこっと……本当ならバニラアイスも 欲しいところですけど、そこまで贅沢は言えません。 一口食べてみれば、さっきとはちょっと違った味わい。和風っぽいホットケーキというのも、 また格別なんです。ふふっ、次は何をかけて食べようかなぁ。 かしゃっ 「……えっ?」 小さな物音に顔を見上げると、ゆーちゃんがデジタルカメラをこっちに向けていました。 「ゆ、ゆーちゃん?」 「すっ、すいません。かなたさんが楽しそうに食べてる姿がかわいくて、つい」 えっと、もしかして今のわくわくしながら食べていた姿が撮られていた……ということ なんでしょうか? そ、それってすっごく恥ずかしいんですけど…… 「もうっ、ゆーちゃんまでこなたみたいなことしちゃだめじゃない」 「あははっ、実はお姉ちゃんに『シャッターチャンスがあったらお願い』って言われてたんです」 「まったく、二人していたずらっ子なんだから」 でも、ここはゆーちゃんのホットケーキの味に免じて許してあげちゃいましょう。 「こうやって、画面の中のかなたさんを写真に収めておくのもいいかなって……はいっ、 いい感じに撮れました」 「はうっ」 そう言ってゆーちゃんが液晶画面をこっちに向けましたけど、私ってばすっかり頬が ゆるんじゃって……こ、これはさすがに恥ずかしいです。 「今のかなたさん、チョココロネを食べてるときのお姉ちゃんにそっくりでしたよ」 「そ、そうなの?」 「はいっ、とってもそっくりです」 自信たっぷりにそう言われると、なんだかちょっと嬉しいというか……こなたとの絆が 感じられて、悪くないですね。 「それじゃあ、私もいただきますね」 「ええ、いっしょに食べましょ」 娘のようにかわいい子と、いっしょの昼下がり。こういう時間も、今の私には大切な時間です。 その3・ゆいの場合 「むー……帰りたくないよー」 スニーカーをつっかけながら、ゆいちゃんが名残惜しそうに呟きます。 「だめでしょ。これからお仕事なんだし、しっかりしないと」 「わかってるけど、お姉ちゃんが……お姉ちゃんがー」 あらあら、ぐずりやすいのは小さいときのゆいちゃんのままね。 「まだもう少しいられるから、いつでもいらっしゃい」 「そうそう、私たちもいつでも待ってるし」 「電話をくれたら、かなたさんから習ったお料理をまた作ってあげるよ」 「ううっ、かわいい妹たちよー!」 「わわっ?!」 感極まりそうになりながら、こなたとゆーちゃんをいっぺんに抱きしめるゆいちゃん。 でも、私がいるノートPCはこなたが持ってるのを忘れてほしくないんだけど…… 「でもいいなー、二人はいつでもかなたお姉ちゃんといっしょにいられて」 「ほらほら、人差し指をほっぺたに当てて物欲しそうな顔しない」 この歳になっても子供らしさがあるのはいいことかもしれないけど、ちょっと考え物なのかもしれません…… 「だったら、私たちが撮った秘蔵画像をあげよっか」 「秘蔵画像?」 ひ、秘蔵画像ってもしかして…… 「ほらっ、こういう画像をね」 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 こ、こなたってば、その画像はダメですっ! ダメだってばぁ! 「おおっ! これはかわいいメイドさん!」 ううっ、聞こえません。何を言ってるかなんて聞こえませんし、どんな顔をしてるかも 見えません! というか見たくありません! 「ほら、他にもセーラー服とかブレザーとか、巫女さんとか」 「いいなーいいなー、これ全部ケータイの壁紙にしてもいいねー!」 「こ、こなたお姉ちゃん、かなたさん逃げちゃったよ?」 「おやおやゆーちゃん。ゆーちゃんだってお母さんのことを激撮したじゃありませんかー」 「うおっ、お食事中の写真まで!」 あう……あれだけ気軽に人に見せちゃダメって言ったのにー…… 「あれっ? でも、お姉ちゃんだけの写真ばっかりなんだね」 「えっ?」 そのゆいちゃんの言葉に、私もこなたも、ゆーちゃんも顔を見上げます。 「確かに、言われてみればそうかも」 二人が撮っていたのは、私だけの画像や写真ばかりでしたからね。 「せっかくだからさ、家族みんなの写真を撮ってもいいんじゃない?」 「そういえば、まだ撮ってなかったわね」 「おおっ、それは気付かなかった!」 「かなたさんのことばっかり気が向いてたから……うんっ、それもいいかも」 ゆいちゃんに言われて気付きましたけど、確かに家族みんなの写真があってもいいかもしれません。 「それじゃゆーちゃん、お父さんから三脚とかいいデジカメとか借りてこよう」 「その前に、おじさんもちゃんと呼んであげないと」 「おー、そーだそーだ。んじゃゆい姉さん、ちょっとお母さんをお願いね」 「あいあいさー」 そう言うと、こなたは私がいるノートPCをゆいちゃんに渡して、ゆーちゃんといっしょに そう君の部屋へと走っていっちゃいました。二人とも、何かあるとなったら行動が早いんだから。 「ゆいちゃん、ありがとう」 「えっ? 何が?」 私が見上げると、何もわかってないように首をかしげるゆいちゃん。 「家族写真を撮ろうって言ってくれて……私、すっかり忘れてた」 「いやー、だって、ないよりあったほうが楽しいでしょ? お姉ちゃんがみんなといるっていう証にもなるし」 「私がいる証……いいわね、それも」 「でしょ?」 笑いながら言うゆいちゃんの無垢な笑顔に、私も思わず笑ってしまいます。 そう、ゆいちゃんは昔からこういう子だったのよね……いつも何気なくみんなを笑顔に させてくれる、とっても優しい子。 その小さい頃と変わらない笑顔は、私にとってゆいちゃんからのとても嬉しい贈り物でした。 その4・そうじろうの場合 見渡す限りの、緑色のトンネル。 もう桜は無くなってしまっているけど、鮮やかな緑に彩られた木々が陽の光で淡く輝いています。 「今頃、こなたとゆーちゃんは読んでくれてるかな」 そう君が、風に揺れる木々を見上げながらぽつりと言いました。 「ええ、きっと読んでくれてるはずよ」 「こなたはあんまり活字が好きじゃないみたいだからさー。ちょっと、心配でな」 「大丈夫よ。今までも、こなたはそう君の物語を読んでくれていたんでしょう?」 「嫌々だろ、たぶん」 苦笑いして、手をぱたぱたと振るそう君。 「まあ、あんまり感想は期待しないでおくよ」 「はいはい」 でも、私は知ってますよ。こなたが読むことをそう君が楽しみにしてることも、こなたも そう君の物語が好きだっていうことも、ずっと見てきましたから。 「しかし、この堤は毎年変わらんなー」 「お花見をする人がたくさん来るようになったみたいだけど、ほとんど変わらないのね」 私がまだ元気だった頃に歩いた、長い長い権現堤。初めて来たときに見たここの桜並木は、 とても圧巻だったのを今でもよく覚えています。 「ちょっと先に行けば橋とかが出来たりしてるけど、そんなに気にはならないな。あと、 紫陽花がたくさん植えられていたり、湖も出来たり」 「景観を壊す開発じゃないなら、いいことね」 「おかげで、散歩するときの楽しみが年々増えていって……でも、まさかこんな楽しみが待ってるって思わなかった」 そう言って、ふとそう君が携帯電話の中にいる私をのぞき込んできます。 「かなた、この数日間どうだった?」 「そうね……うんっ、とっても楽しかった。 こなたと初めて話せて、ゆーちゃんと出会えて、ゆいちゃんと再会できて……そう君と、 こうしてまたいっしょに過ごせて」 この時間はきっと、そう君ががんばってこなたを育ててくれたことへのご褒美。 「楽しくて、とっても幸せだったわ」 私にだけじゃなくて、神様はそう君にも贈り物をしてくれたのでしょう。 「そうか」 「ええ」 私がうなずくと、そう君も嬉しそうにこくりとうなずいてくれた。 「俺も、かなたといっしょにいられて幸せだったよ」 それは、私の想い出と全然変わらない、そう君の優しい笑顔。私が大好きで、大切なそう君の笑顔です。 「ありがとう、そう君」 だから、ずっとその笑顔でいてくださいね。 「こっちこそありがとう、かなた」 贅沢な願いかもしれないけど……私がもうすぐ帰ってしまっても、こなたやゆーちゃん、 ゆいちゃんと、笑顔でいっしょに過ごしていてください。 そうすれば、私もずっと笑顔でいられますから。 「ねえ、そう君。いっしょに写真撮ろう?」 「おっ、写真か」 その笑顔をいっしょに残したくて、私はこなたたちがしたようにねだってみました。 「って、今デジカメは持ってないんだけどなぁ」 「ケータイのほうがいいかも。いっしょに顔を寄せ合って撮りたいから」 「そっか。んじゃ、どうやって撮るかな。この間のアキバのときみたいに、また調整するか?」 「ううん、そんなことしなくても大丈夫」 かぶりを振りながら、そっと力を解放していきます。 「か、かなたっ?!」 ふわりと、携帯電話から私の意識が離れていくのがわかる。 そして……目を開ければ、目の前には愛しいそう君の姿。 「ほらっ、これならいっしょに撮れるでしょ?」 いたずらに成功した子供みたいに、翼を羽ばたかせながらそう君に笑いかけてみる。 「まったく……去年のお盆みたいにびっくりさせやがって」 「私からの、そう君へのご褒美ですよー」 しょうがないなと笑うそう君に久しぶりに甘えたくなって……私は、そう君が広げて くれた腕の中へと飛び込んでいきました。 エビローグ・そして、それから 「――って、お父さんってばずるいー! お母さんといっしょに撮るなんて!」 「スマンッ! かなたが一度っきりの荒技って言ってたもんで……」 お父さんは拝み倒しながら謝ってきたけど、そんなズルいことしてたんだもん。 「バツとして、今日のカレーはお父さんだけルー抜き」 「だあっ! しっ、白飯オンリーだなんてそんな殺生な!」 このくらいのバツ、あげても当然だよね。 「……でもさ、こなただってかなたが来てからいっぱいスクリーンショットを撮ってたんだろ?」 「そ、そりゃそうだけど」 「いいよなー、かなたといっぱいスクリーンショットが撮れて。そこでどうだ? お父さんと かなたの写真をあげるから、カレーの件はチャラにするってのは」 うおっ、それはそれで私の痛いところをついてくる…… 「わかったよ。その代わり、お父さんの部分はあとで塗りつぶすから」 「うわー、こなたってばストレートすぎ」 貰ったからって、全部許すほど私は甘くないんですよーだ。 「もう、こなたもおじさんも子供みたいじゃない」 「でもすごいねー、こんなにいっぱい撮ったんだ」 かがみとつかさが、写真用紙にプリントアウトしたスクリーンショットやデジカメの 写真をいじりながら話しかけてくる。 「本当、泉さんにそっくりの方だったんですね」 「……仲間」 買ったばかりのアルバムに写真を貼り付けるみゆきさんに、写真の大きさを揃えている みなみちゃん。って、なんでお母さんの胸元あたりばっかり見てるかなー。 「不思議なこともあるんスねー」 「去年もこういうことがあったんだって。ね、お姉ちゃん」 一枚一枚、目を輝かせながら写真を見るひよりんに、今もがしょんがしょんと印刷中の プリンターに向かっているゆーちゃん。 かがみたちに全てを話した、次の日の朝。 お盆休みに入ったっていうこともあって、みんなは私の家に集まって、いっしょにお母さんとの 想い出のアルバム作りを手伝ってくれていた。 「そうそう、去年のお盆にお父さんといっしょに写真を撮ってたらさー」 そう言いながら、私は引き出しに大事に仕舞ってあった写真をひよりんたちに見せてみた。 「うぉう……こ、こういうことがあるんですねー」 「こ、これって心霊写真っていうのかな?」 「凄い……」 あー、やっぱりびっくりするよね。後ろから私に抱きついているお父さんの背後で、 うっすらと手を振ってるお母さんの姿が写っているんだから。 「へえ、本当にこなたと背格好もそっくりじゃない」 その中で一人、かがみはびっくりしないでその写真を見ていた。 「きっと、かなたさんはこなたとおじさんを強く想っていたのね。だから、かなたさんの姿が くっきりと写って……こうやって、この家に帰ってきたのよ」 「泉さんやおじさまの想いが、かなたおばさまに届いたのかもしれませんね」 「かなたさんが写ってる写真、みんな楽しそうだもんねー」 「だよねっ、そうだよねっ!」 みんなの言葉に、私の心があたたかくなっていく。 突拍子もない「お母さんが還ってきた」って言葉を、包み込んでくれたかがみ。 最初は戸惑っていた二人も、この数日の出来事を話すうちに信じてくれて……今、 こうやってわいわい言いながら写真を見てくれている。 「泉先輩一家って、とっても強い絆ですよねー」 「……それは、とてもいいこと」 ひよりんの言葉に、みなみちゃんもこくりとうなずく。 二人とも巻き込んじゃった形だけど、写真の山を見てゆーちゃんの思い出話を聞いた今、 こうしていっしょにいてくれる。みなみちゃんに関しては、ほんのちょこっとだけお母さんと面識もあったらしい。 「でも、これってアルバム一冊で足りるの? まだまだ印刷するのがあるんでしょ?」 「あー、確か1ギガ近くあったはずだから足らないかも」 「い、1ギガって、そりゃまたたくさん撮ったのね……」 って、容量でドン引きすることないじゃんかー。 「だって、お母さんとの想い出だもん。いっぱい撮っておかないと」 「私も、いっぱい撮ったんですよ」 「俺もいろいろ撮ったなぁ」 私たちが本気を出せば、そりゃもう数百メガなんて軽く越えちゃうわけですヨ。私なんて 全部高解像度のビットマップファイルで保存してあるし。 「それだけ、たくさんのことがあったってわけか」 「そゆことそゆこと」 かがみの言葉に、私ははっきりとうなずいた。 日数にすればたったの数日間だけど、それ以上にたくさんの出来事があって、たくさんの 想い出を作ることができたから。 「では、たくさんアルバムを買わないといけませんね」 「私も、写真貼ったりするお手伝いするよー」 「私も手伝いますよー」 「……一緒に、やらせてください」 「みなさん、ありがとうございますっ」 「ホント、ありがとねっ!」 ゆーちゃんといっしょに、私も笑顔でお辞儀する。 「よかったな、こなた。いい仲間がいて」 「うんっ」 ホント……私ってば、幸せ者だよね。 こうやって、いろんなことを話せたり、いっしょに過ごせる仲間がいるんだから―― 「あー、その中に男が一人でもいればホントに『それなんてエロゲ?』な世界なんだろうなー」 「あ、あははははは……」 だからこそ、こういうときにアナタの余計な一言はやめてほしかった! ううっ、せっかくいい空気だったのにぶち壊しにしてくれちゃってー…… 「はろー。お集まりですかな? 若人たちよー」 「あれっ、ゆい姉さん?」 「お姉ちゃん、いらっしゃい」 突然ドアが開くと、その隙間からひょっこりとゆい姉さんが顔を出してきた。 「ゆたかからメールをもらってさ、私もアルバム作りに参加しようって思って。ほらっ、 差し入れのアイスだよー」 そう言うと、ゆい姉さんはぎっしりアイスが詰まったコンビニ袋を掲げてみせた。 「おーっ、ゆい姉さんナイスっ!」 「すいません、成実さん。なんかお気を遣わせてしまったみたいで……」 「いーのいーの、こういうのはみんなで楽しくやらないとねっ」 みんなで、楽しく……か。 それじゃあ、みんなが揃った今がちょうどいいかもしれない。 「だったら、さ」 「うん?」 私はテーブルの上に置いてあったお父さんのデジカメを手にすると、 「アルバムに入れる写真の中に、みんなの写真も入れちゃおうよ」 ここにいるみんなのことをぐるっと見回しながら、そう誘ってみた。 「おっ! いいな、それ」 「それいいねっ、お姉ちゃん!」 「いいねいいね、じゃんじゃん撮っちゃおう!」 二つ返事で答える、我が家の面々。 「ホントにいいの? 私たちが入っても」 「いいのいいの、お母さんはにぎやかなのが大好きだから」 「じゃあ、私もいっしょに入ろっと」 「私も入るねー」 「では、僭越ながら私も」 「私も、よろしくお願いします」 「……私も」 来てくれたみんなも、楽しそうに答えてくれる。 「もちろんっ、どんどん入ってくれたまへー」 やっぱり、こうでなくっちゃ。 玄関の前に出た私たちを、ぴーかんの陽気が迎えてくれる。 ちょっと暑いけど、これくらい気にすることはない。 「じゃあ、前後に二列に分かれる?」 「うーん……九人だけなんだし、横に並ぶだけでもいいんじゃないか?」 「そっか、それもそうだね」 わいわいやりながら、あーでもないこーでもないと考えあう。 これも、みんなでいろんなことをするときの醍醐味。 「それでは、おじさまと成実さんを中心にして、その横に泉さんと小早川さんが並ぶ。 その両横に、私たちが並ぶという形ではどうでしょう」 「おおっ、みゆきさんってばナイスアイディア! それじゃ、それで行ってみよっか」 この数日間、お母さんともそうすることが出来た。 それは、私たちにとってかけがえのない想い出と経験。 「ゆい姉さん、ちゃんとみんな入ってる?」 「ばっちりばっちり。このままタイマーかけてもいいぐらい」 「かけたままそこにいて、入り忘れるなんてオチはないよーに」 今はもう、お母さんの姿を見ることはできない。 けれど、こうやって想い出はずっと残せるから。 「かがみもつかさも、みゆきさんもこれで大丈夫?」 「うん、大丈夫よ。ねっ、つかさ」 「私も大丈夫です」 いつまでも、心の中に。 お母さんだけじゃなく、みんなとの想い出も心にたくさん詰まってる。 「それじゃ、そろそろいくよーっ!」 「はーいっ!」 「えっと、タイマーは十五秒にして……それっ!」 でも、時には形にしておきたいこともあって…… それはきっと、私だけじゃないはず。 「みんな、笑ってー!」 かしゃっ! 「ほらっ、やっぱりいたっ!」 そうだよね、お母さん。 てけてけかなたさん"おかわり" 完 コメントフォーム 名前 コメント ポカポカ( ̄▽ ̄) -- ユウ (2010-04-05 14 37 38) いいssを読ませていただきました。 とにかく、感動です -- 名無しさん (2010-03-25 23 19 36) 泉家の織りなす感動のストーリーに 泣いたぁ -- 白夜 (2010-03-24 00 08 19) こちらも素敵ですね。また涙が出てきそうです。まさかかなたさんとそう君が写真をとっていたとは。そう君にとって最高のご褒美ですね。やっぱり居なくなっちゃうのはとても辛いけど、いつでも見守ってくれていると思うともう寂しくないですね。素敵なお話をありがとうございました。 -- かなた (2007-09-29 22 07 37) かなたさんを中心に泉家の面々が織り成す家族愛の物語。素直に感動したっ!かなたさーん!-- 蛍光灯 (2007-09-10 22 30 02) お疲れ様でした。全体的にほのぼのしていて良かったです。これからの作品も期待しています。 -- 名無しさん (2007-08-28 05 35 40) らき☆すたらしい終わり方でした。おつかれした!! -- 栃木の侍 (2007-08-27 19 58 48)
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こそこそと、画面の影から外をのぞいてみる。 「くか~……ぐお~……」 ふふっ、すっかり眠っちゃって。昨日は徹夜でしたから、よっぽど疲れたんですね。 「それでは、ちょっと失礼しますねー」 私はひとりごとを言って、そう君のデスクトップに降り立った。 えっと、メモ帳は……立ち上がってませんね? はい、大丈夫ですね。 ----- てけてけかなたさん その12・そうくん ----- そう君のパソコンがついていて居眠りしてるとき。それが私のお掃除の時間です。 いつもはこなたのPCにいるかルーターの中にいるかの私ですけど、やっぱり愛する人の PCの中も気になってしまうわけで。え、嫉妬ですか? 違いますよ。多分。きっと。おそらく。 「それじゃあ、今日もがんばってお掃除しますよー」 エクスプローラーを立ち上げると、一昨日よりも1.5GBも増えています。これはきっと、 2・3本は入ってるってことですね。それでは「プログラムの追加と削除」を起動して、と。 両手でスクロールバーを引っ張ると、どうもそれらしいタイトルがありました。「悶絶 ダイナミックおやじ」に「ぷる萌えーる☆アクトレスめいこ」……さ、最初のはちょっと 怖いのでそのままアンインストールして、次のはどういうソフトなのか確認してみましょう。 ……いえ、決してこなたに毒されたわけじゃないですよ? ちょっと興味があるだけですから。 ボリュームを消して、モニタを省電力モードでここだけで見れるようにして、起動っと。 むむっ? 小さい女の子が3人ですか? いくらそう君が「ロリコンでもある」と言っても、 これはさすがに由々しき問題かと……って、きゃあっ?! こ、この子たち、つ、ついて ……み、見なかったことにしましょう! セーブデータとかも無いですし、きっとまだプレイ してないんですよね?! 内容も知らないんですよね! だから今のうちにぽいぽいしちゃいましょうっ! 私はあわててプログラムを閉じると、プログラムのフォルダを開いてその2つのゲームが 入ったフォルダを抱えてごみ箱に駆け寄って、えいっと放り投げた。えっと、もうこれで 大丈夫ですよね……ふー、恐ろしいものを見てしまいました。 とりあえずお掃除はここまでにして、と……これからは、もう一つのお楽しみタイムです。 「新しい作品、どこまで進んだのかな」 こっそりとドキュメントフォルダに入り込んであたりを見回すと、真新しいテキスト ファイルがちょこんと置いてありました。そう、これが私の目的なんです。 「この間は、女の子との出会いまでだったんですよね」 ファイルを開くと、そう君には珍しいコミカルな表現で物語がつづられていました。 それは、北国で一緒に過ごしてきた女の子との物語。生まれたときからずっと寄り添い、 一緒に育っていく――というのが、今のところのお話なのですが、 「18年経って、しっかりと向き合ってくれたんですね」 そう。この物語は、私とそう君が一緒に歩んできた想い出そのもの。 小学校でガキ大将みたいな感じのそう君にからかわれて、いろいろつきまとわれて…… でも、いつでも元気なそう君にあこがれていた頃のお話でした。 「もうっ、好きな子ほどからかいたくなるだなんて」 男の子の語り口は、そう君の想いがいっぱいあふれていてくすぐったくなっちゃうほど。 だけど、とっても力強くてあったかい、まっすぐな言葉。 「ありがとう、そう君」 私の大切な、そう君との想い出。それをそう君も大事にしてくれて、形にして残してくれて。 「もう、きっと大丈夫ですよね」 いつも元気でいようとしても、時々切なそうに仏壇を見るそう君。私がこの世界に 降りるたびに見るその表情が辛かったですけど、もう、きっと大丈夫。 「あと何度、この続きを見られるかわからないですけど……楽しみにしていますから」 私はそっとテキストファイルを閉じると、モニタをそのままにしてPCを後にしました。 完 てけてけかなたさん その13・ともだち コメントフォーム 名前 コメント
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つらつらと文章が書かれたテキストファイルを、少しずつ、ゆっくり眺めていく。 そこに綴られた物語は、私たちをモデルにしたお話。 私とそう君が出会った幼い頃から始まって、私が亡くなって、娘が成長していくという内容。終わりがどうなるかはまだわからなくて、まだ感想を言える段階じゃない。 だけど今、これだけは言える。 「うーん……ちょっと話し言葉が硬すぎるかしら」 「えっ、マジ?!」 ああっ、ノートPCを投げちゃだめですよっ!! ----- てけてけかなたさん その18・にちじょう ----- 私がいるデスクトップPCの前に来るとき、そう君ってばノートPCを布団に放り投げて しまいました。布団だから、あまり心配はないと思いますけど…… 「ちょっ、どこっ、どこっ?!」 「ああっ、顔近づけすぎですってば!」 画面まで数ミリぐらいなんて、目を悪くしちゃうのに。 「ごめんごめん、でも、そんなに表現が硬かったか?」 「地の文ではいいけど、私たちはこういう話し方はしなかったでしょ?」 テキストエディタのスクロールバーをぐいぐい引っ張ってから、その部分を指し示す。 「『私たちは誓う。この先、共にいることを』って、確かに話の雰囲気からしたらいいかも しれない。でも、口にして話してみると……どう?」 「うーむ……確かに。高校生にしちゃ硬すぎる話し言葉だな。よし、今直しとくか」 そう言うと、そう君は表情を引き締めてその言葉をちょいちょいっと直していきました。 「『私たちは誓います。この先、一緒にいることを』……そうね、こんな感じのほうがいいかも」 「そっか。しかしいかんなー、担当の池原さんにも口酸っぱく言われてるのに」 「仕方ないわよ。普段硬めの物語を書いていたら、そういう癖になっちゃうもの」 そう君のテキストファイルはほとんど見ましたけど、確かにサスペンスものを書いていたりすると、 どうしてもそういうシリアスな文章になってしまいますから。 「それはそうだけどさー……うーん、かなたにも言われるぐらいだから、相当なんだろうな」 「冷静な目で見ているから、と言ってください」 「かなたってば、ホントに手厳しい」 高校時代、そう君が物語を書いていると知った私は、よくこういう風に読んではそう君に 感想を言っていました。感想と言っても、今みたいに文章の指摘などが主ですが。 「しかし、そう言われると身が引き締まるよ。よーし、続きもいっちょがんばりますかね」 「がんばるのはいいけど、もう朝よ?」 「へ?」 画面越しの部屋には、カーテンの隙間から外の光が射し込んでいました。 「あちゃー、もう朝か……仕方ない、朝ごはんの用意が終わってからにするか」 「ダメっ! ちょっとは寝ないと、身体がもたないわ」 「いや、そうは言われてもなぁ……」 少し寂しそうな笑みを、私に向けるそう君。 「大丈夫、焦らないで。まだ時間はあるもの」 書けなくなるっていう心配は無くなりましたけど、なんだか今は逆の方向で心配です…… 「健康第一、ですよ」 「あははっ、わかったよかなた。ごはん食べたら、ちゃんと仮眠するからさ」 「それならいいです」 本当、そう君ったら私に似て心配性なんですから。 * * * 「いただきます」 「「「いただきまーす」」」 そう君のあいさつで、私たちもあいさつをする。 私はそう君の隣に乗せられたノートPCの中にいて、何も食べられないはずなのですが…… 「いやー、試してみるもんだね」 私の目の前には、何故かみんなと同じほかほかのお料理がありました。 「まさか、デジカメで撮影したら中で物質化できるとはな」 『試しにやってみようよ』とこなたが今日の朝食をデジカメで撮影して、画像ファイルを このノートPCに転送したら、何故かいい匂いがしてぽんっとお料理が現れて…… ここに来てからいろいろあったけれど、まさかこんなことまで出来るなんて。 「あのっ、よかったら食べてみてくださいね」 「ええ、しっかりいただくわ」 今日の朝ごはん当番・ゆーちゃんの言葉に、私もにっこりうなずく。 今朝の献立は豆腐と油揚げのお味噌汁にあじの干物、だし巻き卵にキュウリの塩もみと、 シンプルだけどしっかり作られたもの。私がよく作っていた朝ごはんの献立にそっくりです。 わくわくという感じで見てくれるゆーちゃんに応えるようにして、だし巻き卵を一口…… あっ、卵の甘みと出汁の香りが、口の中でちゃんと広がっていきますね。 「ふわふわしてて、とってもおいしいわ。焼き具合もちょうどいい感じよ」 「ほっ、ほんとですか?!」 ほっとしながら、嬉しそうに笑うゆーちゃん。 そして、次にお味噌汁を口に運んで……うん、おいしい。 「お味噌汁も、ちゃんと合わせ味噌とお出汁の風味が効いてるわね」 「よかった、かなたさんにそう言ってもらえて」 久しぶりで、懐かしいこの世の味。まさか、もう一度みんなと味わえるなんて…… そう思うと、自然と頬がゆるんでいきます。 「よかったね、ゆーちゃん。私も夕ごはん当番だから、お母さんに食べてもらおうっと」 「んじゃ、その次は俺な。みんなでかなたに腕前を披露しようじゃないか」 「あ、いいですねっ」 「あらあら」 楽しそうな三人の姿に、私も笑いをこらえられませんでした。 やっぱり、にぎやかな食卓っていいですね。 * * * ――ここで誓う約束は未来の道しるべ ――地図を辿って同じ夢を探しに行こう 「ふぃ~、終わったー」 朝ご飯が終わったあと、私はこなたがしているゲームをじっと見ていました。 「ラストシーンの二人の姿、とてもよかったわね」 スタッフロールといっしょに流れていくエンディングテーマを聞きながら、こなたと顔を見合わせます。 「お母さん、すっかり見入ってたね」 「つ、つい……」 こなたはといえば、ドリームキャストのコントローラーを握りながらにやにやと笑っていて…… ううっ、もしかして全部お見通しですか? 「でも……こーゆー風に時を越えた想いってさ、なんかいいよね」 「そうね。強い想いはとっても印象深いから」 ぽつり、ぽつりとつぶやきながら、ゲームの内容を振り返る私たち。 わざわざこなたがドリームキャストをPCに繋いで「そーゆーシーンは無いから大丈夫」と プレイしていたのは、雪が降り続ける村の物語。その言葉を信じていっしょに見ていたけれど、 確かにいい物語だったと思います。数百年の悲恋と現代での成就が、ちゃんと描かれていて。 ――必ずまた逢えることいつでも信じてた ――永遠に変わらないこの思い 切なさごと抱きしめて 「お母さんもさ……ずっと、お父さんのことが好きだったんだよね」 「ええ、ずっと」 自身を持って、ゆっくりうなずく。 ちょっとえっちで、ちょっと妄想癖で、ちょっと女の子好きすぎるそう君。だけど、 優しくて、ずっと側にいてくれて、私を支えてくれたそう君のことが、今でもずっと好き。 「それに、こなたやゆーちゃんのことも大好きよ」 「あははっ、私も大好きだよー」 「ちょっ、こ、こなたったら」 「照れない照れない」 もうっ、マウスカーソルでなでなでしてくるなんて。 「それで、このゲームはこれで終わりなの?」 「うーん……あと一つメインシナリオがあるんだけど、なかなか気が進まなくてね」 そう言いながら、こなたが視線を宙にさまよわせる。 「でも、お母さんがいるなら大丈夫かな」 「私がいれば?」 「うん」 小さく頷いたこなたは、私のほうを向いて少し寂しげに微笑んだ。 「家族をテーマにしたシナリオらしいから」 「ああ……」 やっぱり、そういうお話はちょっと苦手なのかもしれません。今の私もどっちかというと 苦手だけど……ここまでのいいお話を振り返ってみると、大丈夫かもという気持ちもあります。 「それじゃあ、プレイしてみてもいいかな?」 「ええ、いいわよ」 「んじゃ、行くよー」 そう言うと、こなたはタイトル画面に戻って「New Game」を選択しました。 * * * ゆっくりと流れる、街中の風景。 夕陽に照らされた景色は昔とがらっと変わっていて、少し寂しい気もしますが…… 「かなたさん、ほんとにそこで大丈夫ですか?」 「ええ」 いっしょにいてくれるゆーちゃんのおかげで、久しぶりに楽しいおでかけができそうです。 「うーん、ちょっと狭そうな気もするんですけど」 「そうでもないわよ。案外、この中って広いから」 「そ、そうなんですか」 今私がいるのは、ゆーちゃんの携帯電話の中。そして、開いた状態のまま胸ポケットに 入れてもらっています。こなたが無理矢理添付メールに入れたから、ちょっと来るときに 酔っちゃいましたけど、イヤホンマイクで会話できるのは便利ですね。 「それで、今日のお買い物は何にするの?」 「えっと、お姉ちゃんからお願いされたのは豚の挽き肉に餃子の皮、それと茄子とピーマンに にんじんと、あとキャベツにねぎですね」 「ふうん……多分、餃子に麻婆茄子ね」 「えっ? 確かに餃子はわかりますけど、どうして麻婆茄子ってわかるんですか?」 「昨日、ちらっと麻婆の素が置いてあるのを見たから。そっか、今日は中華かー」 「お姉ちゃん、基本的にどんな料理もできるみたいですから」 「そうね、この間の鶏大根もよく出来ていたし」 今朝みたいなことができるってわかれば食べたかったけど……残念です。 「私も、お姉ちゃんみたいにできるようになりたいです」 「きっと大丈夫よ。ゆーちゃんも、立派なお嫁さんになれるわ」 「お、お嫁さんだなんて、そんな……」 あらあら、照れちゃって。でも、ゆーちゃんらしいですね。 「ゆいちゃんもいいお婿さんに出会ったみたいだし、ゆーちゃんもきっと幸せになれるわよ」 「お姉ちゃんのこと、知ってるんですか?」 「もちろん。結婚したての時、よく遊びに来てくれたもの」 あの頃はまだ小さくてやんちゃだったゆいちゃんが、もうお嫁さんだなんて……本当、 時が経つのは早いですね…… 「そうなんですか……あのっ、よかったらお姉ちゃんとも会ってくれませんか?」 「ゆいちゃんと?」 「はい、最近よく来てくれるんですよ。きっとかなたさんがいるって知ったら、喜ぶと思いますから」 うーん、本当はあんまり他の人とは会いたくないけれど、ゆいちゃんはあまり 動じない子だから『びっくりだ』の一言で済みそうですし…… 「そうね、私もぜひ会いたいわ」 「本当ですか?! じゃあ、あとでお姉ちゃんに電話しますね!」 「ふふふっ、お願いね」 「はいっ!」 あらあら、嬉しそうにはしゃいじゃって。少し体が弱くても、心が元気なら大丈夫ですね。 これも、ゆいちゃんのおかげなのかもしれません。 * * * 「お疲れさま、そう君」 「おお、かなたか。こなたさすがに寝たのか?」 「ええ」 日付が変わってかなり経った頃、そう君のPCに移動してみると、相変わらずそう君は 執筆活動にいそしんでました。 「そう君はどう?」 「ああ、今一段落ついてな。ちょっと見直していたところだ」 そう言いながら、コーヒーを飲むそう君。確かに容量が増えていて、だいぶはかどっているみたいです。 「って、かなた……なんか目が赤くなってないか?」 「えっ?」 あらら、さっきできるだけ涙は拭いたはずなんですけど…… 「ごめんなさい。さっきまでこなたといっしょにゲームしてて、エンディングでちょっと こらえられなくなって」 「ゲームって……かなたが? ギャルゲーを?」 「ええ。こなたに誘われて、ついね」 「へー、かなたがギャルゲーをね」 意外そうに言いながら、そう君が私を眺める。確かに昔はプレイしてるとすねちゃいましたし、 ここに来てからはポイポイとアンインストールしてましたから。 「なかなかよかったわ。そーゆーシーンは無かったし、お話も……家族のお話で、 いろいろ考えるところがあったし」 「それって、こなたが躊躇してたやつか」 「プレイする前、確かにそう言ってたわね。でも、私がいれば大丈夫かもって」 「なるほどね」 そう君も心当たりがあるのか、思い出しているかのように視線を宙に向けます。 「最近は、ああいうゲームもあるのね。ちょっと感心したわ」 「そうだろ? なかなかストーリーがいい作品もあってな、ついつい買っちゃうんだよ」 得意げに言うそう君だけど、やっぱり心に引っかかることもあって、 「でも、えっちすぎるのはダメよ? この間ハードディスクをお掃除した時、私よりも ちっちゃい女の子のゲームとかあったけど」 やっぱり、そういうゲームは嫉妬しちゃいます。 「い、いやっ、でも最近はプレイしてないって! これ以上は何もないぞ?!」 「わかってますよ。ここのところは作品につきっきりだもの」 確かにインストールされてる形跡はないし、プレイしてるような形跡もありません。 「うん。おかげで、もうすぐ第一稿が上がりそうだよ」 そう君の表情からは、確かに充実しているような、楽しんでいるような…… 「みんなに、いっぱい創作パワーを貰ったし」 そんな覇気みたいなものが、画面越しでも感じるほど。 「それに、かなたが読んでくれるからな」 「……うんっ」 その穏やかな笑みに、私はいっぱいの笑顔でうなずいた。 高校生の頃に初めて読んだ、そう君の優しいお話が好きでした。 切ないお話も、楽しいお話も、少し、悲しいお話も。 時が流れて久しぶりに読んだお話は、あの頃以上に文も表現も巧みになって……だけど、 やっぱりそう君らしさはそのままで。 「だって、私はそう君の最初のファンだから」 それが、私の誇りの一つ。そして…… 「……ありがとう、かなた」 そう君のお話は、ずっと私の宝物。 だから、大切に読ませてもらいますね。そう君。 ――ところでそう君、そのUSBメモリに入っているソフト…… ――な、何かな? ――今気付いたんだけど、これって昨日インストールしたのね。 ――ソ、ソンナコトナイデスヨ? ――しかも、このタイトル……今テレビでやってる、魔法少女モノじゃない。 ――って、なんでかなたが知ってるのさ?! ――原稿が終わるまで、禁止ですからねっ。 ――へ? アンインストールするんじゃ…… ――こなたから、いいソフトだって聞きましたから…… ――じゃあ…… ――………… ――原稿終わったら、いっしょにプレイしよっか。 ――……ばかっ。 てけてけかなたさん その19・ふたりへ続く コメントフォーム 名前 コメント すんなりと夫婦になじんじゃってるよ~。 でも、そこがイイ! -- 名無しさん (2011-04-13 05 31 08)
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『くー……すー……』 「あーあー、お母さんってばぐっすり寝ちゃって」 朝起きてPCを立ち上げると、お母さんが画面のすみっこでふとんにくるまって眠っていた。 丸っこいフォントで寝息の文字が浮かんでは消えて……あーもうっ、かわいいなっ! 多分、昨日の夜もお父さんのPCの"お掃除"で疲れちゃったんだろうね。お父さんってば 何故か懲りないで何度もエロゲを入れるんだもん。 ……ん? 今はお母さんが寝ていて、セキュリティも甘い。となったら、やることは一つしかない。 「ふっふっふっ……ちゃ~んす」 私は机の下にしまっておいたパッケージを手にして、目をきらーんと輝かせた。 ----- てけてけかなたさん その11・ありぢごく ----- 《くるくる……きゅっ、と。はい、出来上がり》 《ありがとうございます》 あー、こう、おねーさんがショタっ子を可愛がってあげるってのもいいもんやねー。 なんとなくひよりんの気持ちがわかってきたよ。 というかクロノ、アニメと全然違うじゃん。あっちはA sまで大人びてたけどこっちは純正ショタだ。 『くー……う、うーんっ』 って、やばっ、お母さん起きちゃったよ。 『ふぁ~、何か音楽が聞こえてるけど……って、こなた、またえっちなゲームをインストールしたの?!』 起きて早々、お母さんはぷんすかぷんとばかりにこっちを見て怒り始めた。ええい、こうなったらままよ! 『ち、ちがうって。これはフツーのゲーム! ほら、今テレビでもやってるアニメの原作だよ!』 『えっ? あ、ほんと。よく似てるわね』 ふぃー、テレ玉で2クール目突入してて助かったよ。 『ねえ、私もいっしょに見てていい?』 「う゛っ」 お母さんはわくわくしながら言うけど、この先そーゆーシーンがあるにはあるんだよね。 でも、お昼を食べ終わって時間も有り余ってるし、今日はヒマって言ったから逃げ場は無いけで。 『い、いいよー』 『ありがとう、こなた』 えーいっ、もうどうにでもなれっ! もうEドライブをやられるのも覚悟だ! ……そんなこんなで、お母さんと"同伴エロゲ"をすることになった私。そーゆーシーンは恥ずかしがって隠れてたけど、それ以外はずっと画面のすみっこで画面を見上げていた。 『お母さん、ちょっと聞くけど……もしかして、ハマッた?』 『ちっ、違うわよ! こなたが熱中してるから、つい!』 私の言葉に、顔を真っ赤にして否定するお母さん。でも……「おかあさん、かぁ」とか「クロノくんいいわねー」ってIRCのログを見てると、全然説得力無いデスヨ。うん。 このままお母さんの姿を見ているのもいいと思ったけど、時間はそろそろ夕方の4時半。 『うーん、ちょうどきりもいいトコかな。夕ご飯のお買い物に行ってくるから、そのままにしといてねー』 『えっ? あ、う、うん』 私は机の上にある財布を手にすると、お母さんに手を振って部屋を出た……っと、自転車のカギ忘れてた。 あわてて部屋に戻って、パソコンラックにあったカギをひったくったその時。 《リリカル、マジカル……》 《大切な想い出を……返してっ!!》 なんで勝手にボイスが、とゆーか物語が進んで……って、ちょっ、何クリックしてるのさ! 画面を見ると、お母さんはウインドウに手を伸ばして勝手に話を進めていた。 『あのー、おかーさーん』 『ひゃあっ?!』 お母さんの肩をダブルクリックすると、びっくりした顔でこっちを振り返った。 『ふっふっふっふっ……よーこそ、こっちの世界へ』 『ちっ、違うの! 違うのよっ、! ちょっといい話だなって思って、違うのーっ!!』 そう全否定して、ウインドウを閉じるお母さん。でも、ちゃんとセーブしてから閉じて いたあたり……ねえ? さて、今度はどんなゲームを用意しましょーかねー。 完 てけてけかなたさん その12・そうくんへ続く コメントフォーム 名前 コメント 良作エロゲは一般向けを凌駕するのさ♪ -- 名無しさん (2011-04-12 23 44 47)
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それは、お父さんが言ってたとおりの穏やかな別れだった。 ----- てけてけかなたさん 最終話・ららばい ----- ―――― 眠りに誘われるように、ゆっくり閉じゆく瞳。 そして、命の全てを昇華し終えたような穏やかな笑み。 「ありがとう、あなた」 握っていたはずのきさらの手が、するりと毛布へと落ちてゆく。 「幸せ……でした……」 その言葉を最後に―― 「きさら……?」 彼女の、全ての時間が止まった。 ―――― 淡々と書かれた一節が、逆に鮮明なイメージを思い浮かばせる。 まるで、本当に私が別れの瞬間に立ち会っていたみたいに。 * * * お父さんが書いたお話は、やっぱりお父さん自身とお母さんをモデルにしたものだった。 ピアノを得意としていた男の子が、体の弱い幼なじみの女の子に元気になれるようにと願い、 曲を作って聴かせてあげるというのが始まりの部分。成長した二人はそのうち想いあうようになって、 駆け落ち同然で北日本から関東の地へと住まいを移す。 知らない土地での、二人っきりの生活。豊かではないけれど、お互い支え合って自分たち なりの幸せな日々を過ごしていた。 そして、女性は男性との子供を身ごもることになる。でも、体の弱さが災いしてだんだん衰弱していく。 なんとかして連絡をつけた肉親からは「堕ろせ」とも言われたらしい。それでも女性は 「産みたい」って強く願った。 《生まれてくる子の命を、どうして奪おうとするんですか!? この子は、私ときょう君の子供です。私ときょう君は、この子に生まれてきてほしいんです!》 その願いは受け入れられた。ただし「諦め」という形で。 ほとんどの人に見捨てられてしまった中で、男性やずっと応援し続けてくれてた男性の妹、 そしてその娘に支えられて女性は出産に臨んだ。 その願いは叶って、元気な女の赤ちゃんが産まれる。その赤ちゃんを抱き上げることが 出来た女性は、まるでそれに満足したかのように床に伏せってしまい、男性はなんとか 元気づけようと、女性と娘を贈る曲を書き上げて二人のもとへと届けることができた。 だけど、その願いも虚しく……さっきのシーンへと続いてゆくことになる。 床に伏せるまでのお話は、お父さんやゆきおばさん、ゆい姉さんに聞いていたことと符合していた。 たぶん、本当にあったことを書いたんだと思う。淡々と書いてあるそれは直接的で、とっても重かった。 私は、それだけみんなに支えられて産まれてきたんだ。 話はまだ続いていく。 残された男性は、寂しさとショックのあまり音楽の作り方を忘れてしまう。娘との多忙な 日々の中であがこうとするけど、泥沼にはまっていく一方。普通の職に就いても音楽を 書きたいという欲望だけは忘れられなくて、自己嫌悪に陥ってゆく。 止まらない負の連鎖の中で、男性は保育園児になった娘にねだられて久しぶりに川沿いの 堤へ散歩に出かける。季節ごとに景色が変わるそこは男性と女性のお気に入りで、物語の中盤 にはこの場面がよく登場していたほど。女性が妊娠したと告白するシーンもこの場所だったけど、 女性が亡くなってからは思い出す辛さから行けなくなっていた。 堤には一キロあまりの桜並木が続いていて、夏場のこの季節には鮮やかな緑のトンネルに なっていた。娘がはしゃいで走り回っているうちに男性とはぐれてしまい、慌てて探そうと して逆に深いトンネルの中へと迷い込んでしまう。 その中でさまよっているうちに、男性は一人の女性と出会う。それは、もういないはずの 自分の妻。一瞬混乱した男性だったけど、女性はおかまいなしに男性を連れて歩いて会話を 始める。それは音楽とともに忘れていた二人の「想い出」。見ている途中で娘に起こされて 「夢」だと判ったけれど、失っていたはずの記憶が再現されたことで、欠けていた男性の心が ほんの少しだけ満たされてく。その日から、休みの日には堤に行くことが日課になった。 緑のトンネルだった並木道が、秋には紅のトンネルに。 紅のトンネルだった並木道が、冬には枯れ葉のじゅうたんに。 枯れ葉のじゅうたんだった並木道が、春には桜色のトンネルへと変わっていって、男性の 心のかけらも「記憶の夢」を見るうちに少しずつ埋まっていった。 桜の見頃も終わろうとしていたある日、桜見物の人通りもすっかり無くなってしまった 堤を歩いている男性と娘の前に、あの女性が現れる。自分の記憶の中には無い出来事に 男性は混乱するけれど、娘が自分にそっくりな女性に懐くのを見て、今の時間をただ いっしょに過ごそうと思う。 女性と男性に手を繋いでもらいながら、楽しそうに歩く娘。叶うはずの無かったその 光景を見て、男性は思わず胸を熱くする。やがて、いっしょに遊んでいるうちに疲れたのか、 娘が女性の胸の中でうとうととし始める。そして、女性が子守唄――男性が最後に贈った唄を 歌っているうちに眠ってしまい、ついに二人きりになった。 やがて、男性の疑問の言葉に女性が口を開く。 男性が忘れてしまったこの場所の想い出を護っていたということ。そして、二人のことを ここで見守っていたということ。「心配かけないでくださいね」と拗ねる女性に、男性は ただ泣き笑いをすることしか出来なかった。亡くなってもなお、自分のことをずっと 想っていてくれたということ。そして、娘の成長した姿を見てくれたことが嬉しかったから。 ただ「ありがとう」と繰り返す男性。それは、最期の時に女性が言ってくれたのに、 自分が言えなかった言葉。それを伝えることで、ようやく男性の心の全ての欠片が揃った。 「私も、ありがとう」と返した女性は「きょう君の音楽が、空の上まで届くのを楽しみに しています」と言うと、娘の頭をそっと撫でなから男性にくちづけをし、舞い散る桜の中 へと消え去っていった。 帰り道、夕陽の光を浴びながら娘を負ぶって家へと帰る男性。やがて娘が目を覚ますと、 女性と同じ唄を口ずさんであげる。寝ぼけまなこだった娘は喜びながらその曲のことを 聞いて、男性は「お母さんとお前に作ってあげた曲だよ」と言い、少しずつ女性のことを 話していく。再び心の中に湧き始めたメロディを、娘と空にいる女性のために書き上げて いこうと思いながら。 ――これが、お父さんが書き綴った物語。 最後の一枚を読み終わって、表紙へと戻る。 『四季色の迷い路で』と書かれたタイトルを目にしてから、ふと見上げてみれば物語の中のような緑のトンネル。 「ふうっ」 葉っぱの隙間から降り注ぐ光を浴びながら、私は小さく息をついた。 この物語に込められていたのは、永遠の別れをしても忘れないものがあるという想い。 「ありがとう……か」 男性が女性に告げたその言葉は、多分お父さんのお母さんへのメッセージ。それだけ、 お父さんはお母さんのことをずっと想っていたってことなんだろう。 とってもあたたかくて、純粋な想い。小説を読むのが苦手な私だけど、それをたくさん 感じたくてずっと読み進めることが出来た。 「…………」 向かい側の木に寄りかかっていたゆーちゃんも全部読み終わったみたいで、ぼーっと表紙を見ている。 「ゆーちゃん、読み終わった?」 「……えっ? う、うん。全部読んだよ」 呼びかけてみると、我に返ったようにあわてて返事するゆーちゃん。それだけ、物語に はまりこんでいたのかもしれない。 「なんか、こう……お父さんのお母さんへの想いがいっぱい詰まってたね」 実感を込めながら、私はコピー原稿を抱きしめた。 「うん。おじさんのかなたさんへの想いもそうだけど、お姉ちゃんへの想いも詰まっていたと思うよ」 「えっ?」 「なんていうのかな……主人公の男の人が夢から目を覚ますときって、いつも女の子が 起こしていたでしょ? それに、最後のほうだといっしょに手をつないでて、それって 夢と現実の架け橋みたいな感じだなって、そう感じたの」 「架け橋……?」 「多分、パソコンの中のかなたさんとおじさんの架け橋になったお姉ちゃんのことを 書いたんじゃないかな」 「そっか……そうかもね」 お父さんは、ちゃんと私への想いも書いていてくれたのかもしれない。そう思った瞬間、 私の心の中があったかくなっていく。 「まったく、お父さんってばいっつも変なことしてるくせに、たまにこんなお話を書いちゃってさ」 そんな憎まれ口を叩きたくなるほど、ほっぺたがゆるんで仕方ない。 「やっぱり、おじさんって小説家だったんだね」 「おやおや、ゆーちゃんまで意外そうデスネ?」 「ええっ?! そ、そういう意味で言ったんじゃないよー!」 ゆーちゃんってば、すっかり慌てちゃってる。でもわかってるよ、いっつもマイペースな お父さんからいきなりこれを見せられれば、意外に思ってもしょうがないって。 「二人して、なにやってるんだ?」 「あらあら、なんだかにぎやかね」 そんな風にゆーちゃんをいじってると、お散歩から戻ってきたお父さんとお母さんが 声をかけてきた。 「あ、お父さんにお母さん。ゆーちゃんってばねー」 「わわっ! だめっ! だめだってばー!」 「こらっ、ゆーちゃんをからかったりしちゃだめでしょ?」 「むー、ちょっといぢってただけなんだけどなー」 「ほっ……」 ケータイの中に入ってるとはいっても、やっぱりお母さんはお母さん。きっぱりとした 声に、私はすぐに話題を打ち切った。 「で、読んでくれたかな?」 そして、待ってましたとばかりにお父さんが聞いてくる。 「うん、全部読み終わったよ」 「私も、全部読み終わりました」 「そうか……で、どうだった?」 どうだったかって聞かれても、言えることは一つしかない。 「お父さんってさ」 たった一つの、純粋すぎる言葉。 「お母さんのこと、大好きなんだね」 「当たり前だろ。かなたは、今でもずっと俺の妻なんだからな」 その純粋さが、お父さんが書いた物語に表れていて、 「うんっ。そのキモチが、物語の中にいっぱい詰まってた」 そんな感想が、私の口から自然に出てきた。 「私も、そう思いました。かなたさんとお姉ちゃんへの想いが、たくさん込められてて」 「そうか……だったら、よかった」 私とゆーちゃんの言葉に、ちょっと緊張していたお父さんの表情がほころんだ。 「たださ、どうしても身内びいきで見ちゃうってのもあるから、世間様がどう見るかはわからないよ」 「ああ、それはちゃんとわかってる。ある意味、これは家族に向けた手紙みたいなものだからな」 「手紙ですか?」 「うん。俺はかなたとこなた、ゆーちゃんにゆいちゃん、それにゆきに支えられて生きてきたからね。 そのお礼として書きたいなって思ってたんだ」 ゆーちゃんのつぶやきに、お父さんが優しく私たちに微笑む。 「あとで、ゆいちゃんにも見せてあげないとな。こないだ来たときに見たいって言ってたし」 「あの、お母さんに見せてもいいですよね?」 「ゆきにかい? なんか照れるなー。今まで面と向かって礼とか言ったことなかったから、 なんて言われるかかわらないし」 「だめよ。私たちへの手紙なら、ちゃんとゆきちゃんにも見せてあげないと」 「うーむ」 ゆーちゃんとお母さんの言葉に、お父さんはまいったなーという感じで頭をかいた。 「……まあ、いっか。後で郵送でもしとくよ」 「お父さんってば照れ屋さんだねー。物語はこんなストレートなのに」 「ほっとけ!」 おーおー、お父さんってば照れに照れちゃって。ケータイの中のお母さんも、ゆーちゃんも 笑いたくて仕方ないって感じだね。 「それで、お母さんも読んだんでしょ? お母さんは、どう思った?」 「私? 私はね」 そう言いながら、お母さんはお父さんのほうを見上げる。 「ずっと想ってくれているのも嬉しかったけど、ちゃんと前に向かって進んでいこうって 気持ちが込められていたのが嬉しかったわ。想いだけに縛られることなく、ね」 「そっか……」 お父さんと会うのを、とても嫌がっていたお母さん。会ってしまうことでお父さんが ダメになってしまうんじゃないかって心配していたけど、やっぱり大丈夫だったでしょ? 「でも、まさかここを最後の舞台にするなんて思わなかった。確かに想い出の場所だけど、 そう君にはこんなに大事な場所だったのね」 そう。物語の中に出てきた"堤"は、今ここにいる権現堤のこと。 「引っ越してくるときに満開の桜並木を見て、かなたと歩いただろ。書くことに詰まった ときにはかなたがよく誘ってくれたし、こなたとも保育園帰りによく歩いた」 お父さんはぐるりと辺りを見回しながら、懐かしむように言った。 緑のトンネルが、どこまでも続いていく並木道。そっと吹く風が木々のざわめきを起こして、 私たちを包むようにあたりに響いていた。 「だから、いつかここを舞台に小説を書いてみたいなって思ってさ。それで、かなたと また会えたときに、こう……ふっと頭の中で繋がってね。最後の舞台はここにしようって決めたんだ」 小さなときから、よくお父さんと歩いた大好きな道。 私がかがみやつかさ、みゆきさんと歩いように、お父さんもお母さんといっしょに ここを歩いて、思い出をいっぱい作っていたんだ。 「それで、読むときにここへ行こうって誘ったわけ?」 「んー、それもあるけど」 そう言ったお父さんの表情が、少しだけかげる。 「今日は、みんなといっしょにいたかったからな。俺とかなただけがここに来てたんじゃ、 こなたとゆーちゃんに悪いだろ」 「あっ……」 そっか……だから、お父さんは二人で散歩するんじゃなくて、みんなで来ようって言ったのか。 「まあ、脱稿祝いのささやかな外出ってところだ」 「そういえば、まだ担当さんにはコレ送ってないの?」 「んー……もうちょっと、落ち着いてからかな。まだ〆切に余裕があるし、もう少し手元に 置いておきたい気分だから」 「うぉうっ、いつも〆切に追われてる極悪人とは思えないお言葉っ!」 「ふっふっふっ、これからは〆切を健全に守る書き手になってやる!」 ちょっとしんみりした空気を吹き飛ばすように、二人してはしゃいでみる。 「そう言っておいて、次には輪転機が回らなくなるほど〆切を破ったりして」 「ああっ! かなたっ、そんな昔のことは言わんでくれ!」 「そ、それはさすがにあぶないんじゃないかなーって……」 「……お父さん、前科持ち?」 お母さんにゆーちゃんも、いっしょにノッてきた。やっぱり、私たちにそーゆー空気は似合わないよね。 「そ、それはそれとしてだ! 今日はせっかくだし、どうだ? みんなでどこかに食事でも行くか?」 慌てて自分を取り繕うお父さん。でも、 「あー、それなんだけど」 今回は、そのお誘いには乗れない。 「今日は、ゆーちゃんといっしょに料理しようと思うんだ。お母さんから習ったお料理、 いっぱい作って食べてもらいたいし」 「むむっ、そうか。それはそれで楽しみだな」 おお、お父さんの目の色が変わった。やっぱり手料理には弱いですなー。 「お母さんも、食べてくれるよね?」 「ええ、もちろん。期待してるわよ」 「き、期待されてるとちょっとキンチョーしちゃうなぁ……ゆーちゃん、いっしょにがんばろーねっ」 「うんっ!」 ちゃんと、お母さんの技を覚えたってところを見せてあげないと。 それが、私がお母さんにできる唯一のことだから。 * * * かちゃかちゃと、食器がぶつかり合う音が鳴り響く。 ゆーちゃんが洗い物をしている側で、私は洗い終わった食器を拭いて戸棚に戻していた。 「ふぃー、疲れたねー……」 「夕方からずっと立ちっぱなしだったからねー」 二人して、ちょっとダウナーな声で話しあう。 夕方にみんなで買い物に行って、お料理して、ごはんを食べ終わって、お風呂に入って 後片付けをして、時計を見てみればもう9時。4~5時間も動きっぱなしならさすがに疲れるか。 「えっと、これで最後だよ」 「うん、りょーかい」 最後の食器を受け取って、ふきんでふきふき……よしっ、完了。 私は鶏大根を入れていた大皿を戸棚に戻して、少し湿った手をエプロンの裾で拭いた。 「お疲れさま、二人とも」 「いやいや、これくらいえんやこらだよー」 手をひらひらとさせながら、ノートPCの中にいるお母さんに返事する。 「二人とも、腕を上げたわね。これならこれから好きな人が出来たとき、いい武器になるわよ」 「す、好きな人だなんてっ……」 「おや? ゆーちゃんは誰かいるのですかな?」 「ううんっ、そうじゃなくて、今まで考えたことなかったから」 んー、確かにゆーちゃんからしたらまだ早過ぎることなのかもしれないね。 「ふふっ、好きな人だけじゃなくて、お友達に食べてもらうのもいいんじゃないかしら。 よくうちに遊びに来る――えっと、岩崎さんや田村さんに食べさせてあげるとか」 「あっ、そうですね。みなみちゃんや田村さんに食べてもらうのもいいかも」 「そういう目的があれば、これから先もっと伸びるはずよ」 「そっか。かなたさん、ありがとうございますっ!」 嬉しそうに、ぺこりとPCに向かっておじぎするゆーちゃん。お母さんも優しい笑みを 浮かべて「いえいえ」と頭を下げた。 最初に見つかったときはパニクったけど、ゆーちゃんは新しいお姉さんが出来たみたいに 喜んでたし、お母さんもまるでもう一人の娘みたいにかわいがってたし……ゆーちゃんと お母さんを会わせてあげられて、ホントによかった。 「お母さんはさ、お父さんのために料理の腕を磨いていたの?」 「え、えっ?」 ありゃりゃ、お母さんってばわかりやすいほど顔が真っ赤になっちゃって。 「う、うん……私は、お料理でしかそう君のことを支えてあげられなかったから…… だから、いっぱい勉強して、いっぱい作って、喜んでもらおうって……」 「そっかー、お父さんも果報者だね。お母さんにこんなに想ってもらえるなんて。 んで、お母さんはお父さんのどんなところが好きだったのカナ?」 「えっと、それは、その……優しいお話を書いてくれて、私とずっといっしょにいてくれて…… それに……私を、ずっと守ってくれたから……」 おー、顔はもうゆでだこ寸前。お母さんってば、どうしてお父さんの話とか振ると こんなにわかりやすくなるんだろうね。 「おいおい、かなたをいじるのはそれくらいにしとけよー?」 「あ、お父さん」 仕方ないなーという感じで笑いながら、お父さんが居間から戻ってきた。 「ほっ……」 むぅ、お母さんってばあからさまにほっとしちゃって。でもいいか、お母さんの想いの ことも知ることができたもんね。 「そんで、用意はできたの?」 「おう、バッチリだ。ちゃんと布団敷いといたぞ」 「お布団?」 きょとんとしながら、お母さんが小さく首をかしげた。 「ああ、みんなで川の字になって寝ようって思ってな。それに……さ」 言いにくいのか、お父さんは苦笑しながらそこで言葉を濁した。 「……そっか」 だけど、お母さんはそれを察して寂しそうに笑う。 だって、今日がみんなでいられる、最後の日だから。 「だからこそ、みんなでいっしょに寝ようって思ってな」 「そう。だったら、私もごいっしょさせていただくわね」 「当たり前だっての。お前がいなけりゃ始まらないんだから」 さっきとは違って、明るく笑う二人。それは、長年連れ添った夫婦みたいに自然だった。 でも、それも当然だよね。長く離れていたって、お父さんとお母さんは小さい頃から ずっといっしょだったんだから。 「とゆーわけで、パジャマに着替えてるみたいだし、片付けも終わったみたいだし、 みんなで居間に行きますか」 「はいっ」 「おいーす」 返事をしながら、台所の電気を消して居間に入る。居間にはびしっと三組の布団が敷かれていて、 お父さんは真ん中の布団に座ると、その枕元にお母さんがいるノートPCとマイクを置いた。 「まだ、電気は消さなくてもいいよな。まだ9時過ぎなんだし」 「そだねー」 私とゆーちゃんも、それぞれ両端の布団にぽふんと寝転がる。 そして、お母さんを見つめたまま沈黙が流れて…… 「……しかし、改めてこうやると、話す話題が見つからないというか」 「そ、そうなんだよね。毎日いっぱいお話してたから」 お母さんが来てから、ほとんど毎日しゃべり尽くしちゃったからなー。 「あら、そう? 私はまだお話したいことがあるんだけど」 「えっ?」 「あなたたちの、これからのこと。今までのことはいっぱい話したかもしれないけど、 これからのことは話してなかったでしょ?」 「あ……そういえば、そうかも」 「だから、それを聞かせてくれないかしら」 にこにこと笑いながら、お母さんは私たちの顔をぐるりと見回した。 これからのこと、かぁ…… 改めて考えてみると、確かにずっと話してなかったっけ。 「俺は、これまでと同じように小説を書き続けるよ」 何を言おうか迷っていると、いの一番にお父さんが口を開いた。 「まだまだ書きたいこともいっぱいあるし、何より、昔かなたと約束したからな。 いっぱい物語を書いて、それをそっちへ手みやげとして持って行くって」 お父さんは、少し寂しそうに……だけど、しっかりとお母さんにそう言った。 「ふふっ、楽しみにしてるわ。でも、健康には気をつけてね? 徹夜ばっかりしてたら、 体を壊しちゃうから」 「わかってるよ。まだまだこなたのウエディングドレス姿を見るまでは……って、いかん いかん、こなたはずっと結婚しないでウチにいるんだった」 「ちょっ、お、お父さんってば勝手に決めないでよっ!」 「そう君、娘の巣立ちっていうのは突然やってくるんだから、覚悟はしておいたほうがいいわよ?」 「ううっ、それだけはイヤだ……」 穏やかにたしなめるお母さんと、血涙を流しそうな勢いで私を見るお父さん。手放したくないからって、 娘の将来を勝手に決めないでほしーなー。 「……でも、言われたとおり無理はしないようにするよ。まだ、こなたとゆーちゃんを しっかり見守ってあげないとな」 「ええ。あまりにも早く来すぎたら、一ヶ月はお説教とごはん抜きですからね」 「そいつは手厳しい」 そう言って、笑いあう二人。 でも、きっと大丈夫だよ。お父さんって、約束だけは破らない人だから。 「じゃあ、今度はゆーちゃんだな」 「えっ、私ですか?!」 二人の会話を見つめていたゆーちゃんが、急に話を振られてあたふたし出した。 「ええ。よかったら、ゆーちゃんも聞かせてくれる?」 「えっと、えっと……私も、物語を作りたいなって……」 「そっか。ゆーちゃん、絵本を作ったりしているものね」 「はいっ」 お母さん、ゆーちゃんの趣味も知ってたんだ……そういえば、今もゆい姉さんに何か 作ってるんだっけ。 「かなたさんがおじさんのために作っていたように、私もゆいお姉ちゃんにって作っていて…… そしたら、いろいろな人に見てもらいたいなって、そう思ったんです」 「そう。もしよかったら、私にもいつか見せてね」 「はいっ、もちろんです!」 笑顔でめいっぱい応えるゆーちゃん。体がちょっと弱くても、その元気があればきっとできるよね。 「それじゃあ……最後は、こなたね」 くるりと、ゆーちゃんから私のほうへと振り向くお母さん。 「私は……」 だけど、なかなか頭の中がまとまらない。 将来のことなんて、まだまだ先だと思っていた。だけど、改めて言われてみると、高校生活も あと半年ちょっとしかないんだ。 「……ごめん、まだわからないや」 そして、出てきたのは心配をかけてしまうような言葉。 「これからどうしようとか、そういうのはほとんど考えたことなかったから……ごめんね、 ちゃんとしたことが言えなくて」 お気楽にずっと考えていたことが、こんなに辛いだなんて思わなかった…… 「こなた、あまり気にすることじゃないわよ」 「えっ?」 変わらずに明るいお母さんの言葉に、私は伏し目がちだった顔を上げた。 「まだまだ、こなたは18歳なんだから。これからしたいことを見つけても、まだ遅くない 歳だもの。ゆっくり、自分のペースで考えればいいの。したいことをして、その中で自分の 未来に繋がるものを見つけていけばいいじゃない」 「お母さん……」 「そうね。じゃあ、質問を変えましょうか。こなたは、これから何がしたいの?」 これからのこと……それだったら、いっぱい言える。 「お父さんとゆーちゃん、ゆい姉さんやきー兄さんと楽しく過ごして、かがみやつかさ、 みゆきさんと楽しく遊んで、学校でも楽しく過ごして……いろいろ辛いこともあるかも しれないけど、それ以上に楽しいことをいっぱいやりたい」 楽しいことばっかりなんて、わがままかもしれない。だけど、これが自分の正直な気持ち。 「そう。こなたには、そうやって楽しく過ごしたい人がたくさんいるのね」 「うんっ。みんな大好きだから。お父さんも、ゆーちゃんも、ゆい姉さんも、きー兄さんも、 かがみも、つかさも、みゆきさんも、黒井先生も、みんな、みーんな大好きっ!」 子供に戻ったみたいに、お母さんにいっぱい伝えたいことがあふれ出していく。 ……いや、違う。 「それに、ずっと私を見守ってくれたお母さんも、大好きだよっ!」 子供に戻ったんじゃない。 私は、いつまでもお父さんとお母さんの"子供"なんだ。 「私も、こなたのことが大好きよ」 そう言ったお母さんの笑顔が、何故か震えるように映る。 「それに、みんなのことが大好き」 「うんっ!」 ほっぺたを流れ落ちるしずくをぬぐいながら、私は精一杯うなずいた。 「……ごめんね。あなたのそばに、ずっといることができなくて」 「ううん、大丈夫。こうやって、お母さんがここに来てくれたんだもん」 きっと、普通なら叶わなかったこと。お母さんが私たちといっしょにいたいって願って くれたから、こうやって過ごすことが出来たんだ。 「だから……忘れないよ。お母さんと過ごしたこと、絶対忘れないから」 「俺も、ずっと忘れない」 「私も、かなたさんとのことは忘れません」 涙をぬぐって、みんなで笑顔。 「私も、みんなとのことは忘れないわ」 目が潤んでいたお母さんも、めいっぱい笑ってそう言ってくれた。 「私たちは、家族ですもの」 「うんっ」 そうだよね。 私たちは、一緒に過ごした家族だもん。 それから、みんなで話したいことをずっと話しあった。 友達のことや、ゆい姉さんときー兄さんのこと。お父さんとお母さんの馴れ初めや、 ゆーちゃんや私の大切な子のこと。 ずっとずっと話していって……だけど、体がだんだんついていかなくなっていく。 「ふぁ……」 疲れのせいか、頭の中の眠気がだんだん強くなっていった。 「大丈夫?」 「う、うん……だいじょーぶ」 ゆーちゃんのほうを見てみると、ゆーちゃんもうつらうつらと首をゆらしている。 「おいおい。あんまり眠いようだったら、眠ってもいいんだぞ」 私の頭を優しく撫でながら、お父さんが小さな声で言う。 ……お父さんの手って、今でもおっきくてあったかいんだ。 「う、ううん。まだ大丈夫だよ」 「でも、明日も講習があるんだろ?」 「大丈夫だってば」 まだ、眠ることはできないよ。 お母さんのこと、ちゃんと見送ってあげなくちゃ…… 「だめよ、こなた。ちゃんと寝ないと」 「だって……だって……」 子供の頃、お父さんにしていたみたいにぐずる。 もうすぐ、お母さんがいなくなっちゃうから…… 「そうね……だったら、子守唄を唄ってあげましょうか?」 「子守唄……?」 「そう」 やさしくほほえみながら、おかあさんがわたしのことをまっすぐみる。 「最後に、唄わせてくれないかしら。初めての子守唄」 「最後で……初めて……」 たぶん、これがおかあさんのさいごのおねがい。だけど…… 「おかあさん……ねてるあいだに、いっちゃやだよ……」 わたしは、ちゃんとおかあさんのことをみていてあげたいのに。 「大丈夫」 だけど、おかあさんはにっこりわらってくれた。 「私は、あなたたちのことをずっと見守っているから」 「ほんと……?」 「これからも、ずっとね」 「……じゃあ、こもりうた……おねがいしても、いい?」 そのことばに、わたしはあんしんしてそういえた。 「ええ」 おかあさんはそっとめをとじると、すうっといきをすいこんだ。 ――やわらかなそよかぜ ――この髪を揺らして おかあさんのうたごえが、やさしくみみにとどく。 ――小さな涙を そっと ――空に連れてく いっしょにしたゲームのなかの、やさしいこもりうた。 ――あたたかなこの手に ――つつまれておやすみ おとうさんのてのぬくもりと、おかあさんのうたごえ。 ――やさしく触れる頬に ――伝うやすらぎ それが、わたしのことをそっとつつんでくれた。 ――そっと瞳閉じてごらん ――楽しい夢見れるように すうっと、とじていくめ。 ――歌を聞かせてあげる ――愛しい子よ 誰よりも さいごにみたのは、おかあさんのほほえみ。 ――この胸にいつも抱きしめて ――あなたを ずっと守りたい さいごにきいたのは、おかあさんのうたごえ。 ――愛しい子よ 誰よりも ――たくさんの愛につつまれて そして……いしきが、すうっととおざかっていく。 ――おやすみ 楽しい夢見て おやすみなさい…… おかあさん…… そして…… ありがとう。 お母さん。 * * * 「んっ……」 目に飛び込んできた光に、寝返りをうつ。 光って……朝なのかな……って、朝?! 「っ!」 その事実に、眠気が一気に覚めて起きあがる。 そして、枕元にあったPCを見たけど…… 「あっ……」 そこには……ただ、デスクトップの画面が映っていた。 「おはよう、こなた」 「……お父さん?」 見ると、お父さんが隣の布団に座ったまま私のほうを向いていた。 「ずっと、起きていたの?」 「ああ」 「お母さんのこと、見送ったの?」 「もちろん」 カーテンの隙間から入ってくる陽の光は、お父さんの寂しそうな笑顔を照らしていた。 「笑顔で、手を振りながら行ったよ」 そう言いながら、お父さんはそっと光のほうを見上げた。 そこはきっと、お母さんが還っていったはずの場所。 「そっか……」 私も、お父さんと同じようにそこを見上げる。 「最後にさ、言っていたよ」 「……なんて?」 「女の子にうつつを抜きすぎないこと」 「……それは、お父さんにじゃん」 「次に、一夜漬けはほどほどに」 「うっ、それは……」 「それと……元気に暮らしてね、だってさ」 「元気に……もちろんだよね」 「ああ、元気に暮らさないとな」 まったく、お母さんらしいや。最後まで私たちのことを心配してるなんて。 「かなたも、きっと見てるからな」 「そうだね」 ずっと見守ってくれるって、約束してくれたもんね。 「さてと、そろそろゆーちゃんを起こしてあげようかね」 「そうだね。ゆーちゃんにも、ちゃんと伝えてあげないと」 私は立ち上がって、ゆさゆさとゆーちゃんのことを揺り動かした。 「ゆーちゃん、朝だよ。ゆーちゃーん」 こうやって、私たちはまた普通の日常に帰っていく。 * * * 「おーい、弁当代持ったか?」 「うん、ちゃんと持ったよ」 ポケットのお財布を確認しながら、トントンと革靴のつま先で土間を蹴る。よし、これで準備OK。 「済まんなー、弁当作るのすっかり忘れてたよ」 「ごめんね、お姉ちゃん」 「いやいや、大丈夫だよ。私だって頭からすぽーんと抜けてたしさー」 どうしてもぼーっとしちゃって、頭の中にちゃんと物事が入らない。うーん、こりゃ夏期講習もやばいかな。 「ほんじゃま、行ってくるねー」 「おう、行ってらっしゃい」 「行ってらっしゃい、お姉ちゃん!」 「はーいっ」 見送ってくれている二人にしゅたっと手を上げて、私は玄関のドアを開けた。 「おおっ、いい天気だなー」 見上げてみれば、雲一つ無い青空。 風もカラッとしてて気持ちいいし、走ってるうちにぼーっとしたのも治るかな。 「んしょっと」 自転車のスタンドを上げて、ころころと自転車を転がす。 あとは門を開けたら、外に出て閉めて…… 「…………」 そう思ったまま、門にかけた手が止まる。 ……そっか。 ずっと、見守ってるって言ってたっけ。 もしかしたらと思いながら、ドアに向かって小さく手を振る。 「行ってきます」 そのまましばらくドアを見つめて……えいやっと、自転車に飛び乗った。 さてっと、心配かけないように、今日もがんばりますか! 自転車のペダルを踏み込んで、私は通学路をゆっくりと走り出した。 『行ってらっしゃい』 翼が生えたお母さんが、玄関の前で手を振ってる姿を心に焼き付けながら。 てけてけかなたさん 完 コメントフォーム 名前 コメント デジタルっていうと未だに冷たいイメージを持ってる人が多いけど、このシリーズはそーいう先入観と無縁の次元にあると思います。 チャット、インカム、デジカメ、キャプチャーといったガジェットを使う毎に、かなたさんと日常の共有が深まっていく過程がステキでした。 最多得票はトーゼンですね! -- 名無しさん (2011-04-14 00 36 11) あたたかいお話ありがとう 電車の中なのに泣いてしまいました -- 名無しさん (2010-06-27 15 10 47) 涙腺が・・・ 崩壊したままなおらねぇ。 -- 黒天 (2010-05-30 01 47 46) 最高。 全読者が泣いた! -- 白夜 (2010-03-23 22 52 19) ヤバイあったかすぎる(ToT)GJ -- 名無しさん (2010-03-22 02 57 46) とても良い話でした。 幸せに生活してほしい。と思わずにわ要られませんでした。 もっと見守っててください。 -- 名無しさん (2010-01-25 18 32 39) 最高でした!読み応えがあり泣けました! イイハナシダナー(T-T) -- 名無しさん (2010-01-16 18 49 44) ボロ泣き…; ; ここまで泣いたのは久しぶりでした!! あとその才能半分でいいから分けてくry -- h-mu (2009-05-12 03 15 12) 感動をありがとう。 -- 2T (2009-04-05 03 44 50) あれっすね、なんかこう・・・よかったっス!! -- 名無しさん (2009-03-07 23 08 40) いい話だったよ… あれ?よすぎてなんもいえねぇ… -- 名無しさん (2009-02-14 17 45 34) 家族の良さがすごく伝わってきて感動しました -- 中二 (2009-02-12 00 33 11) やばい…もう涙で画面が見えねぇ…! 作者様、あなたは神です!!ありがとうございました!! -- 名無しさん (2009-01-16 17 38 01) 何度読んでも良いものは良いとしか言えません。 らき☆すたの二次創作というのを無しにしても、名作でしょう。 他の皆さんも言っていますが、本当に名作をありがとうございました。 作者殿に最敬礼!! -- にゃあ (2008-10-05 15 25 13) う…う…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!! これはもう芸術作品ですよ(T^T) -- 無垢無垢 (2008-08-23 22 02 40) 涙腺崩壊…いい話しすぎる…作者様…あなたは神だ…GJ -- nora (2008-08-21 09 31 31) 『幸せ願う彼方から』を聞きながら読んだ結果報告。 最初から鳥肌がクライマックスで半ばから曲とのシンクロ率が急上昇、最終話で俺の涙腺崩壊; -- 名無しさん (2008-08-08 02 46 20) ありがとうございました。 -- 霧幻斎 (2008-08-03 12 49 09) 素敵な話をありがとうございましたm(_ _)m -- 名無しさん (2008-07-22 19 09 16) 涙が…止まらない… -- 名無しさん (2008-07-18 22 49 11) 良い参考になると思って読み始めたら・・・ まさか涙腺崩壊してしまうとは・゚・(つД`)・゚・ 作者殿、あなたは神だm9(=ω=.)ビシィッ -- まじかる☆あんばー (2008-06-27 14 12 17) 涙腺決壊。責任とってね。 -- 名無しさん (2008-06-25 22 13 54) これは・・・ホントに、泣ける・・・ -- 名無しさん (2008-06-19 01 12 58) 俺の想定外のいい話だった… かなり泣けるんですけど…やっべ~まだ泣いてる -- 名無し (2008-05-20 21 11 06) 今まで見た中で一番感動した話だった。らき☆すたでこんなにいい話がつくれるなんて -- 名無しさん (2008-05-15 10 31 48) まさかここまでのいい話を読めることができるとは・・・ 何回読み直しても泣ける・・・ らき☆すた、そして作者に贈りたい・・・最高をくれて、ありがとう -- 名無しさん (2008-04-12 21 22 19) 今回までで何回読み返したことか。 (言葉は悪いけれど、)元々ヌきネタを探して来たエロパロ保管庫だったのに、気付けばそれを忘れて読みふけってしまっていた。 日常では忘れてしまいがちな「家族への愛」「恋人への愛」を思い出させてくれる作品だった。 作者に「最高」の一言と共に感謝を述べたい。 本当にありがとう。 -- 名無しさん (2008-03-31 00 25 47) このおはなしの作者はとっても文才があると思います。こんなに たくさんの人に感動を与えたのですから。これからも素晴らしい お話を作ってくださいね。 -- 九重龍太 (2008-03-25 00 55 15) 涙で顔がぐしゃぐしゃです。こんなに幸せで、切なくて、だけど愛しい、という物語を初めて見ました。 家族、というものの温かさを、改めて感じさせてもらいました。 ありがとうございました!乙!!! -- 名無しさん (2008-03-24 18 44 58) 涙が…止まんないよ -- kuro (2008-03-15 22 54 29) 感動をありがとう!! -- 名無しさん (2008-02-18 19 14 38) 読み返したの2回目だけど 前は帰り道で大泣きできずじまいですた。 そして、今久しぶりに読み返して 何回見ても泣けてくる…つд;) と、思いますた。 今度は「幸せ願う彼方」を聴きながら読んでみたいです。 -- 名無しさん (2007-12-13 00 57 12) エロパロ通の俺から言わせてもらえば、てけてけかなたさん最終話の読み方は、 『幸せ願う彼方から』を聴きながら読む。これ。 しかしこれをやると画面が滲んで読みづらくなるという諸刃の剣。 素人にはお勧めできない。 と、そんな冗談は抜きに何度読み返したことか。 素晴らしい。GJ -- 名無しさん (2007-12-03 23 45 24) 最高でした。いいものをありがとう -- 名無しさん (2007-12-02 21 40 46) 薦められてみました。最初はくすっと笑えるほのぼのしたものだとおもってましたが、 まさかここまで泣かされるとは夢にも思いませんでした。 こんなにすごいSSがあったなんて知らなかった自分が情けない。 これからもいい作品を描き続けてください!乙! -- 名無しさん (2007-11-21 04 00 08) 神すぎるよ・・・泣いた -- 名無しさん (2007-11-16 20 40 34) まさからきすたで泣くとは…… 画面がにじんでます -- 名無しさん (2007-11-04 10 46 33) まさからき☆すたで泣く日がくるとは… 原作のキャラを崩さずに素直に感動できるすばらしい作品でした! この物語を書いてくださった作者に感謝しますΣd(;ω;`) -- かりら (2007-11-02 12 09 28) 感動しました。ぜひ出版してほしいです。 -- 名無しさん (2007-10-28 20 22 46) すばらしいって思える作品でした。 時間も気にせず一気に読んでしまいました。 最後のほうは本当に感動して泣きそうでした。 本当にありがとうございました。 -- 名無しさん (2007-10-11 00 56 42) やべ……いつの間にかガチで泣いてた……。文章がやわらかくて、とても読みやすかったです。読み終わってから、「ああ、家族っていいなぁ」って気持ちでいっぱいになって、なんだか心が温かくなりました。最高のSSをありがとうございました! -- 名無しさん (2007-10-05 01 00 27) まじで泣いた・・・・すばらしすぎる!!!!!!!GJ!!!!! -- 名無しさん (2007-10-04 23 43 41) とても感動しました。すごく素直に心に入ってくる言葉に涙が止まりませんでした。すばらしかったです!! -- 柊かおる (2007-10-03 00 38 51) 胸がいっぱいで上手く言えません...ひたすら涙を流しながらずっと読んでました。つい広橋さんの声で読んでいる感じになってしまいました。とても切なく哀しくて、でもとても暖かいお話でした。『ここにある彼方』を読んだ時もいいお話だなあと思いましたが、それとは比べ物にならないほど感動しました。普段読んでいるらき☆すたが今度は少し違って思えるかもしれません。こんな家族や人たちに囲まれてるこなたが羨ましいです。最後の夜に、かなたがこなたに言ってた事はまるで今の私に対して言っているような気がしました。素敵な作品でした。ずっとずっと忘れません。本当にありがとうございました。-- かなた (2007-09-28 00 43 16) 夜中に号泣しながら読みましたもうね、頭のなかでボイスとか流れてきて後半ひたすら泣いてましたよすばらしかったです!! -- 霞 (2007-09-10 23 14 48) 最後らへんになると画面の文字が見づらくなるのが難点wいい作品に巡り逢えました。 -- 名無しさん (2007-09-06 15 34 33) やばい……22話を見てからこの話を読むと……。あの声で再生されて、涙腺が、涙腺があああああ……。 -- 名無しさん (2007-09-04 20 39 36) やっぱり家族愛っていいですね。この小説でそれを教えていただきました。泣けるほど良い作品、ありがとうございました -- インフィニット (2007-09-04 01 12 01) お疲れ様でした。「家族」についてよく表現されていたと思います。これから書かれる作品も頑張ってください。すばらしい作品をどうもありがとうございました。 -- 名無しさん (2007-08-28 04 57 04) 「家族」のすばらしさ、大切さを教えられました。うぅ…涙腺崩壊( っω;`) -- 名無しさん (2007-08-26 21 40 00) とても感動して、中からなにかこみ上げてくるものがありました -- クリ (2007-08-26 05 49 38) 凄いですよこの作品は。凄く久しぶりに心が揺さ振られました。 -- 春山 (2007-08-25 00 10 41) スレで全話読ませていただき、改めて読み直しました。最初からもう一度読むとやっぱり新たな面が見えてきますね…本当にありがとうございました。 -- 名無しさん (2007-08-22 17 55 03) 心が温かくなるいい作品を読めたという、素敵な感動をありがとう登場人物の皆の想い、皆の心情がよく表現されていたと思います。作者に一言「素敵なSSを、本当にありがとう!」-- Qの人 (2007-08-19 20 51 44) すばらしい作品でした。久しぶりに感動しました。乙ですグΣd(;ω;`) -- ヘンサチ (2007-08-19 00 29 37) 素晴らしいお話ありがとうございます!読んでいくにつれどんどん心が温かくなっていく心地よい感覚でした。最後には涙が止まりませんでした。おかわりも頑張ってください。 -- 幸せの手 (2007-08-15 23 11 37) 心があったかくなりました。ありがとうございました。 -- ななしさん (2007-08-14 20 23 14) 一気に読んでしまいました。とても素晴らしいSSでした -- 名無しさん (2007-08-14 18 08 30) シャンゼリオンの初代EDを聴きながらエピローグを読んだら泣けてきました。素晴らしいSSをありがとうございました。 -- 栃木の侍 (2007-08-07 21 06 58) SSを読んでいてこんなに優しい気持ちになれたのは久しぶりです。本当に心温まるお話でした。ありがとうございます。 -- 名無しさん (2007-08-05 20 36 11) なきました! -- 谷口 (2007-08-01 01 14 45) 涙腺が緩んで仕方ありませんでした。素敵な物語を読ませていただけた事に心からの感謝を。 -- 名無しさん (2007-07-31 20 34 56) 物語を読んで泣いたのは久しぶりでした。自分もこんな風に大切な人を大事にしたい…。これからも頑張ってください。応援してます。 -- 名無しさん (2007-07-29 16 07 36) 子守唄のあたりから号泣しました。もう本当に切なくて悲しくて、それでも幸せそうで。久しぶりに心動かされるSSを読ませていただきました。本当にありがとうございました。これからも感動作をよろしくお願いしますね。 -- D.B.Johnson (2007-07-29 02 13 42) ところどころ、泣いてしまいました。ありがとう…いいお話でした。 -- 名無しさん (2007-07-28 06 52 45) グッジョブ゜+.゜(´っω・。`)゜+.゜ -- 佐賀にゃん (2007-07-27 10 03 27) 最高でした私は感動して泣いてしまいました…またいろんなお話を書いてくださいね -- 迷い猫 (2007-07-27 01 39 08)